日本対がん協会

村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」 第27回 言葉を考える⑧~「とてもとても」

掲載日:2026年3月17日

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 さくら さくら。頭に浮かぶ歌は人によって違っても、桜が開花する時期が近づいていることは間違いないでしょう。

第27回 言葉を考える⑧~「とてもとても」

 本格的な春の到来は私自身、とても楽しみです。個人的には、「さくら、さくら」と同様に「とても」を2回重ねたいくらい、春は楽しみな季節です。

 もっとも、「とてもとても」と2回重ねると、その言葉は使い方次第で否定的なニュアンスを帯びたりもします。今回は、「とてもとても」という言葉を通して、社会を見渡してみましょう。

 

「私なんかとてもとても」

 「私なんかとてもとても」。謙遜や遠慮に加えて、どこか諦念も入り混じった言葉です。

 十数年前の日本的な企業では、少なからずの女性がこのような気持ちを持っていたのではないでしょうか。男性が多数を占める社内において、管理職への昇進を尻込みする女性たちも珍しくなかったような気がします。

 しかし、時代は変わりました。国は「2030年までに女性管理職比率30%」という目標を掲げています。達成は道半ばとはいえ、管理職の女性やこれから目指そうとする女性も、日本企業では当たり前になりつつあります。2026年4月からは女性管理職比率の公表が義務付けられており(従業員数101人以上の企業が対象)、女性の管理職昇格や登用は益々拍車がかかることでしょう。

 誰もが遠慮や気兼ねなく、ありのままの力を発揮できること。企業が環境を整備し、一人ひとりの活躍を後押しすること。これからの日本社会にとって、一層大切なことだと思います。

がんと仕事の両立をめぐる「とてもとても」

 視点を変え、がんと仕事の両立や支援を見渡した時、「とてもとても」は所々で顔を出しそうです。

 「仕事なんてとてもとても」。がんと診断されると、このように思ってしまう人もまだ少なくありません。

 令和5年度の「患者体験調査」(※)では、がんと診断された時に仕事をしていた人の内、19.4%が「退職・廃業した」と答えています。この調査では、退職のタイミングについて「がん診断直後」と答えた人が31.7%を占めました。仕事のこと等の重要な決断を不安や混乱の中で下さないようにすべきではないでしょうか。

 あるいは、「うちの会社なんてとてもとても」。治療と仕事の両立支援の取組みが大企業を中心に進む一方、「それは恵まれた企業の話でしょ」と一線を引いてしまう企業もまだあるように思います。

 4月から改正労働施策総合推進法が施行になり、治療と仕事の両立支援は企業の努力義務になります。この動きは企業の取組みの後押しになるでしょう。ただ、各企業は「法律が変わったから仕方なくやる」のではなく、両立支援の重要性をしっかりと腹落ちさせ、進めて頂きたいところです。

第27回 言葉を考える⑧~「とてもとても」

 そのためには、必要以上に取組みを難しく考えないことが大切です。トップ宣言、ガイドブックづくり、当事者との対話。打ち手はいろいろとあります。まずは自社に合ったこと、自社にやりやすいことから始めてみてはどうでしょうか。

 千里の道も一歩から。「私なんかとてもとても」から「とても働きやすい会社」や「とても活躍できる社会」へ。小さくても輝かしい花がここかしこで開くことを願う3月です。

 

※国立がん研究センター「令和5年度患者体験調査結果報告書」
https://www.ncc.go.jp/jp/icc/policy-evaluation/project/010/2023/R5_all.pdf

※厚生労働省「労働施策総合推進法等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html

村本高史(むらもと・たかし) サッポロビール株式会社 人事総務部 プランニング・ディレクター

村本高史

1964年東京都生まれ。
1987年サッポロビール入社。
2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。
11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。
14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。
現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員、「厚生科学審議会がん登録部会」臨時委員も務めている。