肺がんは肺の気管支やその末端にある肺胞の細胞が異常に増殖してできる悪性腫瘍(がん)です。日本では罹患数が2番目に多いがんであり、1年間で新たに肺がんと診断される患者は約12万人(2021年)に上ります。40代以上で増え、女性4万人に対して男性は8万人と、男性に多くみられます。*1タバコとの関連が高く、早期にはほとんど自覚症状がありません。早期に発見できれば5年生存率も77.8%*2と十分に回復が見込めるようになりました。予防のための禁煙とともに、40歳以上になったらぜひ肺がん検診を受けましょう。
肺は背骨と肋骨とで、かごのように囲まれた部分(
胸郭
)に左右に1つずつ収まっている臓器です。
左右の肺の間を「
縦隔
」といい、気管や心臓、食道などがあります。左右の肺は対称ではなく、右の肺は頭のほうから上葉、中葉、下葉の3つに分かれていて、左は心臓があるため少し小さく、上葉と下葉の2つに分かれています。
空気の通り道である気管は肺の入り口である「肺門」から左右に分かれ、「気管支」となります。その先に拡がる「
肺野部
」でも枝分かれを繰り返し、先端にある「
肺胞
」と呼ばれる部屋が空気の終着地点です。肺胞で呼吸に必要な酸素と二酸化炭素の交換(ガス交換)が行われます。
肺がんとは、気管支や肺胞の細胞ががん化したものです。肺門部のがんは、喀痰細胞診や気管支鏡検査で見つけやすく、胸部X線検査では見つけにくいのですが、反対に肺野部のがんは胸部X線検査で見つけやすいがんです。
血液やリンパ液の流れに乗って、胸膜や骨、脳、肝臓、副腎など他の臓器に転移することもあります。
肺がんはがん細胞の性質によって分類されています。「小細胞肺がん」とそれ以外の「非小細胞肺がん」では治療方法が大きく異なるため、2種に分けて呼ばれることもあります。
| 主な肺がんの 種類 |
特徴 | 主な治療方法 | |
|---|---|---|---|
| 非小細胞肺がん 「小細胞肺がん」以外の総称。肺がん全体の約8割 *3を占める |
腺がん | 肺がんの過半数を占めています。 肺の奥に発生しやすく、喫煙に関係ない人でもかかることがあります。 がん細胞に特定の遺伝子異常があることが多いです。 |
手術と薬物療法、放射線療法など |
| 扁平上皮がん | 太い気管支に発生しやすく、喫煙との関連が強いがんです。 咳や血痰などの症状が現れやすい特徴があります。 |
手術と薬物療法、放射線療法など | |
| 小細胞肺がん | 太い気管支に発生しやすく、喫煙との関連が強いがんです。 進行が速く、転移しやすいですが、抗がん剤や放射線療法が効きやすいのが特徴です。 肺がん全体の約1割を占めています。 |
ごく初期のみ手術、多くは薬物療法や放射線療法 「限局型」と「進展型」に分けられ、治療方法が異なります。 |
|
肺がんはタバコや大気汚染といった外的な要因で遺伝子に傷がつき、何段階かの遺伝子変化を経てがんになると考えられています。その人がもともと持っている、発がんを促進する「がん遺伝子」や、本来発がんを抑制する働きをもつ「がん抑制遺伝子」の異常(変異)も影響します。この遺伝子異常は生まれつきのものではなく、誰にでも起こりうる変化です。
早期の肺がんでは、ほとんど自覚症状がありません。また、肺がんのできた場所や大きさによっては進行しても症状が出ない場合もあります。
症状が出たときには、ある程度進行しているケースが多いです。肺がんの転移による症状がきっかけでがんが見つかることもあります。ただ、肺がんの症状は他の呼吸器の病気(肺炎や気管支炎)などでも見られるもので、「肺がん特有の症状」と言えるものはありません。症状が続く場合は医療機関を受診して肺がんでないかどうかを確かめることが大切です。症状が出る前に、毎年がん検診を受けましょう。

咳
風邪症状がないのに2週間以上続く場合は受診しましょう。

発熱
5日以上発熱が続く場合は受診しましょう。

息苦しさ
呼吸困難や動悸が現れることもあります。
肺がんでは、進行度を示す「ステージ(病期)」は主に非小細胞肺がんで用いられます。
T(原発巣のがんの大きさや広がりの程度)、N(リンパ節への転移の有無とその広がり)、M(遠隔転移の有無)を組み合わせた「TNM分類」によって決められます。ステージ1の早期ほど治癒率は高く、ステージ1の非小細胞肺がんの5年生存率は81.5%*4です。
![]() ステージ1 |
がんが小さく、リンパ節転移がない |
![]() ステージ2 |
がんがやや大きいものの、リンパ節転移はない。またはリンパ節転移が最初にできたがん(原発巣)と同じ側の肺にとどまっている |
![]() ステージ3 |
がんが周囲の臓器に及んでいたり、リンパ節に広範囲に転移したりしている |
![]() ステージ4 |
がんが脳、肝臓、骨、副腎など遠隔に転移している。あるいは胸水がたまり、その中にもがん細胞がみられる |
日本肺癌学会編「患者さんと家族のための肺がんガイドブック」2024年版をもとに作成
実際の診断では、1A1、1A2、1A3、1B、2A、2B、3A、3B、3C、4A、4Bとさらに細かく分けられます。
小細胞肺がんでは、ステージよりも主に「限局型」と「進展型」の分類が用いられて治療方法が決まります。限局型は治療方法の選択肢が広く、5年生存率は83.5%*3です。
![]() 限局型 |
がんが最初にできたところ(原発巣)と同じ側の肺とリンパ節だけにとどまっており、放射線療法の可能な範囲内にある場合。 |
![]() 進展型 |
がんの範囲が広く放射線療法ができない場合や、限局型でもがんのある側に胸水がある場合。 |
日本肺癌学会編「患者さんと家族のための肺がんガイドブック」2024年版をもとに作成

自治体の対策型検診で実施される肺がん検診では、胸部X線検査(40歳以上)が厚生労働省指針で推奨されています。また、問診で、喫煙歴、職歴、血痰の有無などを聴取します。
また、「1日の喫煙本数×喫煙年数」が600以上のヘビースモーカー(重喫煙者)については、低線量CTによる肺がん検診の有効性が認められ、今後対策型検診として低線量CT肺がん検診への導入に向けた取り組みが始まる見通しです。
この検査で「要精密検査」と診断されたら、肺がんが疑われますので、必ず早めに(2)診断のための検査を受けましょう。
肺がんが疑われる場合には、がんかどうかを確定するために下記のような生検がおこなわれます。痰や肺の外にたまった胸水を採取して顕微鏡で調べ、がん細胞の有無を確認することもあります。
これらの検査でがんではないと判定されても、引き続き定期的な肺がん検診(1)を受けるようにしましょう。
口や鼻に麻酔をかけて細い内視鏡を挿入し、気管支を通じて病変を直接観察したり、組織を採取(生検)したりします。
体外から針を刺して病変の組織を採取します。
肺の病変ががんとわかったあとの検査では、全身にどのくらい拡がっているか、また、がんの性質を詳しく調べるための検査がおこなわれます。がん細胞の遺伝子検査の結果に応じて薬物療法の選択が異なるからです。肺がんの治療では、このような患者さん一人ひとりに合った治療をおこなう「個別化医療」が進められています。
遺伝子検査は(2)で採取した組織を用いておこないますが、何らかの事情で組織が採れない場合は、組織の代わりにがん細胞から血液に漏れ出た遺伝子を調べる「リキッドバイオプシー」がおこなわれます。
生検で採取した組織から、がん細胞の遺伝子検査やPD-L1というタンパクがどのくらいあるかなどを調べます。
PET(陽電子放出断層撮影)とCT(コンピューター断層撮影)の両方の検査を同時に行い、がん細胞の活動状態と広がりを一度に調べます。

肺周辺の臓器への転移を調べます。
脳へのがん転移の有無を調べます。
骨へのがん転移の有無を調べます。
必要に応じてこの他の検査が加わることもあります。

肺がんの治療は、肺がんの種類(非小細胞肺がんか小細胞肺がんか)、ステージ(進行度)、患者さんのパフォーマンスステータス(全身状態や日常生活での活動能力:PS)によって検討されます。基本的に、現時点で科学的根拠(エビデンス)に基づき専門家が合意した最も推奨される治療法(標準治療)が選択されます。
非小細胞肺がんでは治療法選択に重要な複数の「ドライバー遺伝子」(EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子など)が特定されており、これらの遺伝子変異があるかどうかでどのような薬物療法をおこなうかが決まります。
標準治療は手術ですが、放射線療法が行われる場合もあります。ごく早期の肺がんであれば、手術のみでも根治が期待できますが、生検や手術後の病理検査の結果によって、手術後に薬物治療を加えることもあります。
標準治療は手術ですが、より治療の効果を高めるために、手術前後に薬物治療を加えることが勧められています。手術の代わりに放射線療法をおこなう場合もあります。
ステージ3の標準治療は可能であれば手術と手術前後の薬物療法ですが、ステージ3の中でも進行している場合は薬物療法と放射線療法を組み合わせる「化学放射線療法」が勧められます。基本的な方法は化学療法と同時に開始する「同時化学放射線療法」ですが、化学療法→放射線療法の順で進められる場合もあります。
ステージ4の場合、全身に散らばったがんに対する治療として、薬物療法が標準治療です。がん細胞の遺伝子検査の結果に基づいて最適な治療薬が選ばれます。できるだけ長く元気で過ごすことができるよう、またがんに伴う症状をやわらげることが治療の目標です。
化学療法(抗がん剤治療)と放射線療法を同時におこなう「同時化学放射線療法」が標準治療です。がんの放射線療法は一般的に1日1回の照射ですが、細胞分裂のスピードが速い小細胞肺がんにより高い効果を得るために、放射線を1日2回照射する方法もおこなわれています。また、治療後には、脳への転移を予防するために脳全体に放射線を照射する「予防的全脳照射」がおこなわれます。
がんが広がっている場合や遠隔転移があることをふまえて、全身に効果を及ぼす薬物療法が基本となります。複数の抗がん剤を組み合わせて使用する「多剤併用化学療法」の効果がより高いことがわかっています。

肺がんの治療は、薬物療法と放射線療法を組み合わせて行うことがあります。治療後に再発防止のため、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などの薬を長く続けることもあり、「維持療法」と呼ばれます。自分に合った治療法はどれか、自分自身はどうしたいのか、担当医師とよく話し合って決めましょう。
診断された時点のステージや、がんのできた場所にもよりますが、非小細胞肺がんの場合、手術でがん細胞をすべて取り除いてからも30~70%の患者さんが5年以内に再発し、特に2年以内の再発が多い*5とされています。小細胞肺がんは特に再発しやすいです。手術で完治した後も、定期的に病院へ通い、胸部X線検査やCT検査、血液検査、喀痰細胞診などをおこない、再発がないかどうかを調べます。
再発してもほとんどの場合で治療は可能です。遠隔転移している場合が多いので,治療法としては全身治療である薬物療法が中心となります。初回に受けた治療の効果や副作用,再発までの期間などをもとに検討されます。
緩和医療・緩和ケアはがんの痛みや不快な症状への対応をはじめ、がんを患ったことに伴う心と身体のつらさをやわらげるためにおこなわれる医療です。診断されたときから利用することができます。
肺がんでは、痛み、息苦しさ(呼吸困難)、咳などの症状や、精神的な不安に対するケアが行われます。
まずは主治医に伝えましょう。つらい症状がある場合には薬物療法や放射線療法で和らげるという方法もあります。状況に応じて、緩和医療の専門スタッフに対応してもらえます。
また、心配事や悩みがあれば、病院内に設置されている「がん相談支援センター」で相談してみましょう。当協会の「がん相談ホットライン」もご利用いただけます。

肺がんの最大の危険因子は喫煙です。タバコの煙には数千種類の化学物質が含まれ、そのうち約200種類は人体に有害であり、約70種類の発がん性物質を含みます。喫煙する人が肺がんにかかるリスクは男性の場合一般の人の4.4倍、女性では2.8倍にのぼります。*2さらに、喫煙は周りの人の受動喫煙による肺がんリスクも1.3倍に高めます。*6
石綿(アスベスト),ラドン,ヒ素,クロム,PM2.5などを吸いこみやすい環境で働く人や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎にかかったことがある、肺がんの家族歴があるといった場合にはリスクを高めると考えられています。
禁煙してから10年後には、喫煙を続けた人と比べて肺がんのリスクを半分に減らすことができます。*7喫煙は肺がん以外にも脳卒中、心臓病、糖尿病などさまざまな病気の原因となります。健康のために、タバコを吸う人は禁煙を、吸わない人はタバコの煙を避けることが大切です。

部位別死亡数を最新の2024年データで見ると、肺がんは、男性が5万2333人で1位、女性が2万3236人で2位、男女合計では7万5569人も亡くなっています。
【監修】芦澤 和人
長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 臨床腫瘍学分野 教授
*1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)2021年
*2 国立がん研究センター全国がん罹患モニタリング集計 2012-2015 年 生存率報告
*3 日本肺癌学会「患者さんと家族のための肺がんガイドブック2024年版」
*4 国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」
*5 Villar Álvarez F, Muguruza Trueba I, Vicente Antunes SI. Apuntes sobre recidivas y segundos tumores en el cáncer de pulmón. Arch Bronconeumol. 2016;52:545–546.
*6 国立がん研究センタープレスリリース2016年8月31日
*7 国立がん研究センターがん情報サービス「肺がん予防・検診」
最終更新日:2026年5月14日