日本対がん協会

村本 高史の「がんを越え、”働く”を見つめる」 第29回 日々のとらえ方⑥~「移ろい」を見つめる

掲載日:2026年9月8日

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 9月になりました。この夏、豪雨に見舞われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

 全国的には猛暑の地域もある一方、東京は曇天が多く、解放感が今一つないような気がします。近年は夏が長いと言われつつ、秋の足音も少しずつ大きくなってきました。

 今回は季節の移ろいについて考えてみましょう。

 

9月にして移ろいを思う

 私が身を置くビール業界では、9月が人事異動の季節です。秋から冬のビールの需要も今は伸びていますが、元々のビールの商戦は気温が上がる春から夏にかけてが山場でした。次の年に向けて体制を整える意味で、この時期に大きな異動が行われるようになったようです。

 新天地へ赴く人がいる一方、新たにやってくる人もいます。久しぶりに一緒になる人からは成長や年輪を感じたりもします。春に入社した社員も半年経って戦力の立派な一員となり、まだまだ緊張しつつもたくましさを増していこうとしています。会社としても来年の計画をつくり、それを社内に共有、浸透させていく時期になります。

 行く川の流れは絶えずして元の水にあらず。慌ただしい毎日の中、季節は確実に移ろいますが、気づく余裕もあまりなく日々を過ごしていくのが働く人の実情かもしれません。

 

風に触れ、空を見上げれば

 私が頸部食道がんの再発手術で入院したのは15年前の9月の終わりでした。入院した日は半袖シャツで、残暑が厳しい年でした。最初の手術結果が芳しくなく、同じ手術をやり直し、ICUの生活は26日間となりました。「今朝は首回りが涼しかったんですよ」。「今日はまた暖かかったんですよ」。看護師さんの言葉に季節の移ろいを想像するばかりでした。

 そんなICU生活のある日、病院の別棟に検査に行くことになりました。ストレッチャーで屋根付きの歩道橋を運ばれる途中、久しぶりに自ら触れた秋の風。その肌触りは今でも忘れることができません。

 入院生活は結局43日間となり、退院したのは11月の頭でした。さすがに半袖ではもう寒く、自宅から妻に長袖のシャツとジャンパーを持ってきてもらいました。後にも先にも、季節の移ろいを最も実感した年だったように思います。

 以来15年、勤務先の温かい仲間に支えられ、今日までやってきました。途中で出会った全国のがん仲間との出会いも大きな勇気や希望になっています。季節が巡る中、様々な出会いがあり、いろいろな旅立ちもあったりします。思い出は季節の記憶とともに刻まれ、大切なものになっています。

 緩和ケア医で自身もがんを経験した大橋洋平さんは、「一期二会(いちごふたえ)」を提唱されています。一期一会ではなく、「あなたとまた会いたい」と願う気持ちこそ大事だということのようです。

 ふと見上げれば、空も雲もいつの間にか秋の表情を見せているかもしれません。「久しぶりにあの人に会いに行こうか」。移ろいの中でそんなことを考えてみてはいかがでしょうか。

村本高史(むらもと・たかし) サッポロビール株式会社 人事総務部 プランニング・ディレクター

村本高史

1964年東京都生まれ。
1987年サッポロビール入社。
2009年に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。
11年、人事総務部長在任時に再発し、手術で喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得。
14年秋より専門職として社内コミュニケーション強化に取組む一方、がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の立上げ等、治療と仕事の両立支援策を推進。
現在はNPO法人日本がんサバイバーシップネットワークの副代表理事や厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定検討会」構成員、「厚生科学審議会がん登録部会」臨時委員も務めている。