2023年04月19日(水) 開催

講演資料

ダイバーシティ&インクルージョンの視点から~がん治療と就労

講演1:

ダイバーシティ&インクルージョンと治療と就労の両立支援について

本多 由紀 氏

株式会社資生堂 ダイバーシティ&インクルージョン戦略推進部長

本多 由紀 氏

1989年入社。12年間の営業経験を経て、2001年より本社へ異動。
経営企画、CSR、人事を担当後、資生堂ジャパン㈱人事本部長を経て2022年から現職。ダイバーシティ&インクルージョンの全体戦略策定、女性活躍、化粧の力による心理社会的作用向上などを重点テーマとし、グローバルでアクションをリード。
2022年より公益財団法人日本対がん協会理事。

1989年入社。12年間の営業経験を経て、2001年より本社へ異動。
経営企画、CSR、人事を担当後、資生堂ジャパン㈱人事本部長を経て2022年から現職。ダイバーシティ&インクルージョンの全体戦略策定、女性活躍、化粧の力による心理社会的作用向上などを重点テーマとし、グローバルでアクションをリード。
2022年より公益財団法人日本対がん協会理事。

講演2:

がん患者からみた企業の就労対策

髙木 健二郎 氏

一般社団法人食道がんサバイバーズシェアリングス代表理事

髙木 健二郎 氏

1963年生まれ。広告代理店勤務。48歳の時に「胸部食道がんステージ3」と告知され、2クールの抗がん剤治療後、食道を切除し胃を管状に再建して食道の代用とする食道亜全摘胃管再建術を受ける。2020年、国内に患者会が無く孤立しがちだった食道がん患者の支援団体を仕事と両立しながら設立。2021年より日本食道学会広報委員も務める。

1963年生まれ。広告代理店勤務。48歳の時に「胸部食道がんステージ3」と告知され、2クールの抗がん剤治療後、食道を切除し胃を管状に再建して食道の代用とする食道亜全摘胃管再建術を受ける。2020年、国内に患者会が無く孤立しがちだった食道がん患者の支援団体を仕事と両立しながら設立。2021年より日本食道学会広報委員も務める。

セミナーレポート②「ダイバーシティ&インクルージョンの視点から」

第2回がんリテセミナー「ダイバーシティ&インクルージョンの視点から~がん治療と就労」(日本対がん協会主催、厚生労働省、経団連後援)が2023年4月19日、オンラインで開かれた。株式会社資生堂ダイバーシティ&インクルージョン戦略推進部長の本多由紀氏と、一般社団法人食道がんサバイバーズシェアリングス代表理事の髙木健二郎氏が講師を務め、パネルトークもあり、約200社が参加した。

本多氏は、資生堂の取り組みや自身の経験を交えながら、さまざまな事情を抱えた人たちが自分らしく活躍できる組織や社会へ向けて、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の重要性を語った。

同社は現在12カ国・地域に展開し、約4万人の従業員の国籍は約100カ国になる。性別、国籍、属性だけでなく、多様なバックグラウンドを持つ一人一人の多様な経験こそが多様な視点を生み、違いを認めて生かし合うことで、より良い社会の実現につながる。違いを困難と捉えず、ポジティブに受け止める努力が重要だとした。

ただ、D&Iを妨げる要素(バイアス、ステレオタイプ、同調圧力)は誰にでもある。個々の違いを抑圧し、誰かの可能性を阻んでいないか、常に考える必要がある。また、健康そうに見えて病気の治療をしながら働く人や、個々の性格など見えない違いに気づく努力も大切で、より良い社会を実現するためのヒントも隠されているという。

治療による外見変化が深刻な悩み・・・化粧の心理的、社会的作用は高い

がん治療と就労については、欧米アジア7カ国のがん患者1350人への調査結果をもとに考えた。罹患で退職した人の割合は平均8%(男性6%、女性9%)だが、国別で日本は10%と最も多かった。また、就業中や休業中の患者と比べ、退職者はがん治療による外見変化のケアが必要だとの回答も日本は多かった。周囲の目が気になる、人と会うことを避けるとの回答も多くあり、外見変化が退職につながる深刻な悩みだと考えられる。

一方、同社がん外見セミナーを受講したがん患者93人への調査では、メイクアップやスキンケアに関心を持ち、「外出したくなった」「前向きな気持ちになった」「誰かに会いたくなった」との声が聴かれ、化粧の心理的、社会的な作用が高いことが分かった。第4期がん対策推進基本計画ではアピアランスケアが新たに明記されている。また、女性の活躍や社員の育児などに対応する中で、育児や介護以外にも困難な状況を抱える社員が多いことに気づいた。個々に最適(ジャストフィット)な状態をつくることでパフォーマンスを上げていくことが重要だという。

上司のリテラシー・理解度が就業環境に大きく影響

髙木氏は「がん患者からみた企業の就労対策」をテーマに語った。企業の就業対策に求めるものとして①就業環境②キャリアアップ支援③メンタルヘルスケア④社会復帰支援の4つを挙げた。このうち就業環境では、社員が最初に相談するのは勤務先の上司が最も多く、上司のがんに対するリテラシー、理解度が大きく影響すると指摘。企業のがん対策が充実しても、働く人の理解が深まらなければ就労対策は進まないため、企業は日頃から社員のがんリテラシー向上のための教育をすることが大切だと述べた。

また、「日本人は生涯で2人に1人ががんになる」「全がんでは6割以上が治る」「がんは働きながら治す時代」「がんは早期発見、適切な治療で9割治る」などの解説は、がんを一括りにしてしまう、とも指摘。がん種などの個別性を認識し、がんについて正しく理解することが重要であり、個々のがん患者に合う診療支援が求められている、と話した。その上で「がん患者の声を直接聞いて就労支援を進めてほしい」と訴えた。

意見交換をする(左から)髙木健二郎氏、本多由紀氏、石田常務理事

みんな何かしらの事情を抱えて仕事・・・「困った時はお互い様」が何よりの保険

講演後、日本対がん協会の石田一郎常務理事を進行役にパネルトークもあった。企業側からがん患者の社員へ話を切り出す場合、髙木氏は「自分たちができる配慮を一緒に考えていきたい。少し話し合ってみないか、といった言い回しがいいのではないか」と助言した。

また、就労支援を「不平等」とする声に、本多氏は「みんな何かしら事情を抱えながら仕事をしている。ジャストフィットな配慮は一律ではなく、ある意味、配慮の大きさが違う。これを不平等と呼ぶかは話し合いが必要だが、『困ったときはお互い様』の安心感があるのは何よりの保険では」と話した。
(日本対がん協会機関紙「対がん協会報」2023年5月1日号から)