シリーズがん教育⑧
外部講師と保健体育科教諭の組み合わせ、10分間授業も

 静岡県教育委員会では、文部科学省の「がんの教育総合支援事業」を受けて、2014年度から県立高校をモデル校に指定し、さまざまなモデル授業を実践している。これらの取り組みについて同県の「がんの教育に関する協議会」のメンバーで、リレー・フォー・ライフ・ジャパン(RFLJ)静岡の実行委員長も務める若林敬二静岡県立大学特任教授に伺った。

がんをテーマに公開授業

――モデル校ではどのような授業を行ったのですか

 一昨年は県立富士高校、昨年は県立袋井高校の各1校ずつがモデル校に指定されました。富士高校では11月に全校生徒向けにがんに関する講演会を実施し、私が「がんの発生要因とその予防」、患者代表として、あけぼの静岡代表の星野希代絵さんが「患者からのメッセージ」と題して、2本立ての講演を行いました。その後、講演会の内容を踏まえて、1年生女子42人を対象に、同校の保健体育科教諭による公開授業を行いました。授業の一部では子宮頸がんを取り上げました。講演会と公開授業の前後にはそれぞれアンケートを実施しました。すべて読んで回答したので大変でしたね。

―――子宮頸がんに焦点をあてるのは、ワクチンの副反応問題などで難しい点もあったのでは

 子宮頸がんは若くてもかかる恐れのあるがんで、女子にとっては一番身近ながんで関心も高いです。ワクチンの副反応の原因がはっきりしていないこともあり、取り上げるのに難しい面もありますが、実際には不安に感じている生徒もいたため、正しい知識、検診の重要性、家族との支えあいについても伝え、考えさせる授業をしました。


10分間授業で知識定着

――袋井高校の方はどのような取り組みだったのですか

 袋井高校も外部講師を招いた講演会と公開授業という点は富士高校と同様です。講演会は1年生対象に「生活習慣とがん」というテーマで私が話し、2年生は「がんの治療法、がん治療における緩和ケアについて」というテーマで磐田市立総合病院緩和医療科の医師、それにあけぼの静岡の星野さんが患者の思いを語りました。それを受けて1年生を対象に「喫煙と健康」というテーマで袋井高校の保健体育科教諭が保健の公開授業を行いました。
 ここまでは富士高校と同様ですが、袋井高校では講演会などに先立つ6月から1月にかけての保健の授業で、毎時間10分程度がんについての内容を話すという独自の取り組みを行いました。全部で20回以上になりますか。

――珍しい取り組みですね

 はい。袋井高校の先生から、「生徒たちは今、いっぱい新しい知識を取り入れる時期だけど、一挙に詰め込んでもオーバーフローしてしまう。少しずつ何回も教えていく方が定着する」という指摘があったのです。やはり現場の視点は違いますね。詳細な実施計画や指導内容を策定して授業を重ねる中で、教師自身もがんについての知識を蓄えていけるという効果もあるようです。

外部講師の課題とは

――がん教育に携わってみての感想や課題は

 外部講師として一番難しかったのは、高校生を相手に話す経験が乏しいことでした。普段講義するのは大学生か、年配の市民の方が大半なので、どのくらいの内容を理解してくれて、どういう風に工夫すれば興味を引き付けられるのか、そういったことが全くわかりませんでした。でも、実際講演してみると、生徒たちの理解度は予想以上に高く、非常に関心を持って聞いてくれていたことがわかりました。感想文にも、がんが長い時間をかけて発生することや、検診の効果について全く知らなかったという意見も多く、がんが治る病気であることを知って驚いたという感想もありました。特に女性のがんは5年生存率も95〜96%と、よく治るがんなので、授業をきっかけにぜひ検診の大事さをわかって欲しいですね。

――リレー・フォー・ライフの場をがん教育に生かせないでしょうか

  講演会で患者さんが話すと生徒の反応が全く違います。リレーに関わっている人の中でも話すことが得意な人や好きな人もいると思うので、こちらから教育委員会に積極的に働きかけて協力しても良いと思います。学校に出向くのも良いし、たまには教室を離れて、リレー・イベントのようなリラックスした場で、子どもたちががんの事を学ぶ機会を持てたら良いと思います。

(聞き手 日本対がん協会 本橋美枝)

対がん協会報2016年5月号より