日本臨床腫瘍学会学術集会でパネルディスカッション
佐瀬一洋教授が、がん教育の実践を呼びかける

神戸市で7月末に開かれた第14回日本臨床腫瘍学会学術集会で「今、求められている学校でのがん教育」をテーマにパネルディスカッションが企画されました。
日本対がん協会とともに各地でモデル授業などを通してがん教育を実践してきている順天堂大学大学院の佐瀬一洋教授や、自治体のがん教育担当者らがこれまでの取り組みを紹介し、がん教育の現状や課題について議論を交わしました。
佐瀬教授は「がん教育には児童・生徒を中心に様々な立場の大人たちがまとまる不思議な力がある。まずはどんな形でもがん教育の実践を」と、がん教育への参加を呼びかけました。
佐瀬教授はパネルディスカッションで、6年前に悪性骨軟部肉腫という希少がんと診断され、教科書的には不治の病と書かれていたものの、多くの人たちに助けられながら治療を受けて、生かされていることへの感謝の気持ちを示し、 その上で、患者として、医師として、子どもを持つ親として、少しでも社会の恩返しになればという気持ちから、がん教育に取り組むようになったことを紹介。 がん教育のモデル授業を実施するにあたって教材資料を準備したときに、①がんは不治の病ではないという知識を伝えること②喫煙委員会の方は教育のプロで、色々なツールを持っていることもわかり、がん教育に大きなパワーを感じた」と語りました。
また、厚生労働省なら、がんの予防早期発見、均てん化の話、文部科学省なら健康の大切さ、いのちの大切さの話というように、縦割りとなっていたものが、「がん教育」というキーワードでまとまることを指摘しました。
「次の世代でがんがタブーにならないよう、ほかの色々な困難と同時に思いやりの気持ちと命の大切さを学べるように、どんな形でもがん教育の実践をまずはやってみましょう」と、参加者に呼びかけました。

パネルディスカッションでは、文科省の「がんの教育総合支援事業」としてモデル授業に取り組んでいる大阪府や神戸市の担当者から、事業実績について報告がされた。
大阪府では昨年度はモデル授業に加え、府のがん対策基金を活用して「がん予防につながる学習活動支援事業」として7市の公立中学8校で実施したことが紹介されたが、
学校現場では忙しいことから、この事業は教育委員会ではなく、健康医療部が担当している現状の影響や、がんの検診の受診など、行動変容につながること③リテラシ-の三点に重点を置いて作ったことを説明しました。
さらに「実際に授業を行って児童・生徒の輝く瞳やその感性が印象的だった。学校の現場の先生や教育状なども示されました。
一方、神戸市では、「いのちの尊さ」や「がん」をも乗り越える「いのちの強さ」を感じさせる「いのちの授業」としたモデル校で取り組んだがん教育の実践内容を実践事例集としてまとめて、市内各校に配布し、モデル校以外でも取り組めるよう検討を重ねていることが報告されました。
また、岡山県のモデル校や要請があった学校でのがん教育の出前授業に取り組んでいる岡山大学病院血液・腫瘍内科の西森久和助教は、岡山県内の小中高の養護教諭約400人にがん教育の進め方についてアンケートした結果を報告。
それによると、「やった方がよい」が約4割だったものの、「どちらともいえない」も約4割、「わからない」も約1割で、忙しい教育現場で気持ちが揺れていることが示されました。
また、「実際にやってみたいか」の質問には「やってみたい」と答えたのは約2割、「やりたくない」が約1割だった。
西森助教は、教員自身の知識不足、授業時間確保の問題、生徒への心理的な配慮などがハードルになっていることを指摘しましたが、実際にがん教育を実施した立場から「がん教育はやってみるとすごくおもしろい。今後につながる価値がある」と訴えました。