がん検診研究
助成事業
シンポジウム-研究から見えた日本の最前線-

公益財団法人日本対がん協会は、2023年度に、がん検診の精度や受診率向上に向けてさまざまな分野での研究を支援する「がん検診研究助成事業」を開始しました。初年度は「分野Ⅰ・基礎研究」「分野Ⅱ・臨床研究」「分野Ⅲ・がん検診の受診率や質の向上、普及啓発に向けた手法開発、社会調査等」の3分野で18人の研究者による研究テーマを採択しました。2024度は総額を昨年度から倍増し2000万円に増額し、幅広く研究支援を広げる取り組みを展開しています。がん検診研究の「今」を共有し、がん検診が抱える課題を広く知ってもらうため、2024年8月28日には採択された五つの研究テーマについて研究者が解説するオンラインシンポジウムを開催しました。概要を紹介します。

がん検診へのAI活用、導入に向けて

  • 分野Ⅱ

    胃がん内視鏡でのAI併用はダブルチェックの代替えになるかの検証

    北海道対がん協会 会長 加藤 元嗣氏

    胃がん検診では、2016年度に胃部内視鏡検査が厚生労働省の指針に導入され、徐々に増えています。内視鏡検査の画像は専門医によるダブルチェックが求められています。AI併用の胃部内視鏡検査で画像診断のダブルチェックが削減できるかなどを検討しています。

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  • 分野Ⅱ

    AIがマンモグラフィ検診にもたらす影響:受診者の視点からの分析

    東京医科歯科大学 先端人工知能医用画像診断学講座 准教授 藤岡 友之氏

    AI(人工知能)によるマンモグラフィ診断が受診者に与える影響と受診者の意識を調査し、AIの導入が検診意識や受診率の向上に影響するかどうかみる。AIによる診断結果を受診者にどのようにつなげるか提言し、次世代のAIマンモグラフィ検診の基盤構築を目指しています。

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受診困難な人にがん検診を届けたい

  • 分野Ⅱ

    医療過疎地における大腸カプセル内視鏡を用いた大腸がん二次検診の可能性

    岐阜大学 医学部地域腫瘍学 特任助教 大西 祥代氏

    大腸がんから出た可能性のある便中の血液を測定する便潜血検査で精密検査が必要と判断された場合、医療過疎地域でも大腸がん二次検診が受けられるようにするため、大腸カプセル内視鏡の導入の可能性を探っています。厚生労働省のへき地医療に関するアンケートでは、6割の診療所長が大腸がんも二次検診の対応は困難と回答しています。

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  • 分野Ⅲ

    知的障害者の低いがん検診受診率をモニタリングする方法の検討

    岡山大学 精神科神経科 助教 藤原 雅樹氏

    市区町村が保有するデータを利活用して、知的障害者のがん検診受診のモニタリング方法を検討しています。職域検診の機会が限られ、住民検診の対象者がほとんどですが、109万人にのぼる知的障害者のがん検診に関する知見は極めて限られています。

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がん細胞のDNA解析で早期発見へ

  • 分野Ⅰ

    血中DNA Palindrome配列発現解析による乳癌早期発見法の開発

    順天堂大学 乳腺腫瘍学講座 客員准教授 猪狩 史江氏

    がん細胞のDNAに特異的にみられる特定の配列が有望ながんのバイオマーカーになるではないかと着目し、乳がんの早期発見に利用できないか探る研究内容について説明しました。

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総合討論

まとめ

がん研究助成事業に採択されたテーマは、がん検診の課題の現在地を示すものです。2023年度に採択された分野Ⅰの研究テーマは、リキッドバイオプシー(LB)を利用した診断技術の研究が多くを占めました。LBは血液や唾液などの体液に対して実施する検査。がん細胞や、がん細胞から放出されるDNAやRNA断片などを調べるものです。各国で研究が盛んになっています。

また、分野Ⅱで報告された胃がん検診や大腸がん検診など内視鏡検査、乳がんのマンモグラフィ検査では、近年、AIの導入が進んでいます。精度管理の問題や受診者側への配慮など多くの課題が挙げられています。遠隔地での内視鏡検査の普及に向けた環境整備も必要です。

分野Ⅲで報告されたテーマは、これまで以上により多くの人にがん検診受診を受診してもらう施策に迫られている状況を示しました。国の第4期がん対策推進基本計画では「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す。」を全体目標に掲げており、受診に向けた格差是正策が求められています。

開会にあたって

  • 公益財団法人 日本対がん協会 常務理事 石田 一郎

がん検診の現状と課題

  • 公益財団法人 日本対がん協会 がん検診研究グループ
    マネージャー 服部 尚

    開会挨拶に続けて、がん検診の現状と課題について、公益財団法人 日本対がん協会 がん検診研究グループ マネージャー 服部 尚が報告しました。協会グループ支部のがん検診受診者数の集計では、コロナ禍に落ち込んだ受診者数は回復基調にあることや、対策型検診の対象となっている 5大がん(胃、肺、乳、子宮頸、大腸)検診の現状や、直近の課題について説明しました。

2023年度 採択結果一覧