2020年11月8日(日)に開催されたオンラインイベント、大腸がんサバイバーでプロランニングコーチの金哲彦さんによる「ランニングフォームクリニック」は大盛況のうちに幕を閉じました。
当日受講できなかった方にもそのエッセンスを楽しんでいただけるよう、紙上レポートをお届けします。
金さんは次に、負荷のかからないランニングフォームを、以下のように解説しました。
身振り手振りを交えながら、参加者にランニングコーチをする金哲彦さん
①猫背を避ける
負荷がかからないようにするためには、正しいランニングフォームを覚えなくてはなりません。疲れると、つい下を向いてしまう。猫背になる。金さんによると、これはランニングにとって一番よくないそうです。ランニングはある意味、ジャンプの連続です。猫背ではうまくジャンプできません。胸を開いて猫背にならないように走ることが大事です。猫背になっているかどうかは、壁を使ってチェックできます。壁に背中・足をつけて、頭、肩甲骨、背中がしっかりついているかどうか。猫背だと、上半身が離れてしまうのでチェックできます。
②肩甲骨を動かす
走る時、「しっかり腕を振って走れ」と指導されることがあります。しかし、腕を一生懸命振ってもしっかり走れないことがあります。これは金さんによると、腕の振り方に問題があるからだそうです。大事なのは肩甲骨を動かすこと。ひじをしっかり引いて、肩甲骨を動かして走ることが、無理のないランニングにつながります。普段、猫背の人がいきなり「肩甲骨を動かせ」といわれても難しい。普段から歩く時に肩甲骨を動かすとか生活習慣に取り入れるとよいようです。
③腰を折り曲げない前傾姿勢
前傾姿勢の取り方も大切です。ランニングの時は必ず前傾姿勢になりますが、よくないのは腰から折り曲げるような前傾姿勢です。ちょっと骨盤を立てて、胸を開いて、足もとから前に倒れるような前傾姿勢を取ることが大切です。
④体の重心の真下で着地
足を着地する時は、へその下にある体の重心の真下で着地するようにします。重心の前で着地すると、体に負担がかかるからです。重心の真下で着地すると腹筋を使います。腹筋を使う走りは良い走りです。「重心の真下で着地しろ」と言われても、よく分からないかもしれません。そんな時はまず足踏みをします。足踏みをすると、重心の真下で着地します。次第に体を前に倒し、そのまま走り出すと着地のポイントが分かります。
ランニングの時の前傾姿勢の取り方をアドバイスする金哲彦さん
⑤会社のデスクワーク中にできる練習
ランニングでは腹筋を使った走りが大事です。体を寝かせて腹筋で上半身を起こす体操をしてもいいのですが、そんなことをしなくても腹筋を鍛えることができます。
いすに浅く腰かけて、体を少し前に倒して仕事をします。立ち上がる時はひざに手を当てず、腹筋を使って立ち上がります。姿勢が悪い人は、ひざに手を当てて、「どっこいしょ」と立ち上がります。手を当てずに立つことを日常生活に取り入れると、よいランニングにつながります。
【金さんと参加者のQ&A】
「ランニングフォームクリニック」は、東京都内からオンラインで行われました
以上のような解説が終わった後、金さんは、参加者から事前提出されたランニング動画をみて、「この方は少し猫背ですね」「この方は肩が左右に動いている。体の軸がぶれないようにして肩甲骨を動かすといいです」などとアドバイスしました。この後、参加者は金さんの解説を受けて早速、実践練習をするため、自宅を出て、街へと駆け出しました。約2時間の実践練習の後、金さんは参加者からの質問を受け付けました。
①胃がんサバイバーから練習量について質問
最初の質問は愛知県から参加の男性(50代)で、フルマラソンで3時間45分の記録を持っていますが、2年4カ月前に胃がんの手術をしたそうです。「順調に回復して今ではフルマラソンを完走できるようになりました。次のレースで4時間台を目指して、週1回10~13キロをジョギングしています。今後、どんな練習をすればいいでしょうか」。金さんは「私の大腸がん手術後、筋力が落ちました。でも練習すると必ず戻ってきます。4時間台目指すのなら、もう少し練習量増やした方がいいですね」と自分の体験を交えながら助言しました。
②降雪時の練習など
初心者だという山形県の女性(40代)は「これから冬になり降雪があります。冬場はどのようなトレーニングをするといいですか」と質問しました。金さんは「室内のランニングマシンを利用できるなら、普段と同じ距離を走るとか、あるいはクロスカントリーのスキーもいいですよ」とアドバイスしました。このほか「平日は練習時間が20分も取れればいい方なので、準備運動もせず坂道ダッシュしたりしています。けがが心配なので最低限やりたい準備を教えてください」という岩手県の男性(40代)からの質問に対しては、「準備せず坂道ダッシュは、けがをします。1本目は軽くして、徐々にスピードを上げるなど工夫してはいかがでしょう」と助言していました。
【イベント終了後、参加者から感激の言葉】

イベント終了後、参加者からは様々な感想が寄せられました。「がんと闘う多くの人にエールを送りたい」といって参加した夫婦は、「最高でした。日本対がん協会の活動にも興味を持ちました。イベントやセミナー開催の際には、ぜひ知らせて下さい」と、協会にメール送信してくれました。
「自分の好きな走りを通じて世の中に役立ちたい」といって参加した男性は、「金さんの指導はランニングとご自身の人生に裏付けられたものだったのですね。貴重な内容で感動しました」。弟をがんで亡くしたという男性は「引き続き協会を支援したいです」と約束してくれました。
金哲彦さんのランニングクリニック、主な参加者の想い
埼玉県男性(50代) |
両親はがんで亡くなりました。友人にはがんと闘う人が多くおります。がんと闘う多くの人たちにエールを送りたい。 |
千葉県男性(60代) |
今年、妻が乳がんになり、左右の胸を全摘しました。妻から「私は抗がん剤と闘うから、ぜひチャレンジしてほしい。走る姿を見たい」と後押しされました。がんと闘っている人の役に立ちたいと思って、参加しました。 |
東京都男性(50代) |
弟をがんで亡くしました。その年末からランニングを初めて、マラソンが生涯の趣味になりました。 |
愛知県女性(50代) |
がんと闘っている、いや、がんと共に生きているランニング仲間がいます。走ることが何よりも好きな彼女が、笑顔で走り続けられることを願って、参加しました。 |
埼玉県女性(40代) |
少しでも社会貢献できれば幸いです。小さな積み重ねが大きな行動に発展してつながると信じています。 |
神奈川県男性(50代) |
ランニングを楽しみに人生を過ごしてきましたが、今年、咽頭がんが発覚し、人生を考え直すきっかけになりました。抗がん剤と手術でとりあえず寛解したので、今後はランニングだけでなく、人の助けになる行動もしたいと考えています。 |
長野県男性(60代) |
自分の好きな走りを通じて、世の中に役立つことを考えています。 |
金さんはイベントの最後で、「人はいつ病気になるか分からない。病気になった時、がんになった時、いかに乗り越えるかは免疫力も必要ですが、心の強さも大事です。私の場合、走ることで心の強さを持つことができた。走ることはいいです。完走できたら、ポジティブになれます」と話していました。
世の中には、がんを患いながらも走ることが好きなランナーが大勢います。そんな方が、金さんが言うような心の強さを持ち、東京マラソンを目指してくれることを、日本対がん協会は願っています。