2025年02月26日(水) 開催

講演資料

女性特有のがんと働く女性の健康 ~企業が取り組めるがん対策事例

稲葉 可奈子

産婦人科専門医、医学博士、Inaba Clinic 院長

稲葉 可奈子

京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、双子含む四児の母。 産婦人科診療の傍ら、子宮頸がん予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報を、メディア、企業研修、SNSなどを通して発信している。かかりつけの産婦人科をもつのを日本でも当たり前としていくため2024年7月渋谷にInaba Clinic開院。 みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表、メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表、フジニュースα・Yahoo!・NewsPicks公式コメンテーター

京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、双子含む四児の母。 産婦人科診療の傍ら、子宮頸がん予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報を、メディア、企業研修、SNSなどを通して発信している。かかりつけの産婦人科をもつのを日本でも当たり前としていくため2024年7月渋谷にInaba Clinic開院。 みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表、メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表、フジニュースα・Yahoo!・NewsPicks公式コメンテーター

小巻 亜矢

株式会社サンリオエンターテイメント 代表取締役社長 子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル(Hellosmile)」委員長

小巻 亜矢

株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長。サンリオピューロランド館長。 東京出身、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。 1983年株式会社サンリオ入社。結婚退社、出産などを経てサンリオ関連会社にて仕事復帰。 2014年サンリオエンターテイメント顧問就任、2015年サンリオエンターテイメント取締役就任、2016年サンリオピューロランド館長就任、2019年6月より現職。 子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル(Hellosmile)」委員長、NPO法人ハロードリーム実行委員会代表理事、一般社団法人SDGsプラットフォーム代表理事、松竹株式会社取締役、富国生命保険相互会社取締役

株式会社サンリオエンターテイメント代表取締役社長。サンリオピューロランド館長。 東京出身、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。 1983年株式会社サンリオ入社。結婚退社、出産などを経てサンリオ関連会社にて仕事復帰。 2014年サンリオエンターテイメント顧問就任、2015年サンリオエンターテイメント取締役就任、2016年サンリオピューロランド館長就任、2019年6月より現職。 子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル(Hellosmile)」委員長、NPO法人ハロードリーム実行委員会代表理事、一般社団法人SDGsプラットフォーム代表理事、松竹株式会社取締役、富国生命保険相互会社取締役

セミナーレポート⑧「女性特有のがんと働く女性の健康 ~企業が取り組めるがん対策事例」

企業のがん対策の推進と、働く世代ががんに関する知識を高めて行動の変化につながることをめざす「働く世代のためのがんリテラシー向上プロジェクト」の一環として、日本対がん協会は2025年2月26日、第8回「がんリテセミナー」(日本対がん協会主催、厚生労働省、経団連後援)をオンラインで実施した。講師は産婦人科専門医で「Inaba Clinic」院長の稲葉可奈子氏とサンリオエンターテイメント社長で子宮頸がん予防啓発活動「ハロースマイル(Hellosmile)」委員長の小巻亜矢氏。企業の人事総務や健康経営の担当者ら約220人が参加し、具体例をもとにがん対策にどう取り組めばいいのかを考えた。

女性特有の健康課題による経済損失 働く世代に多い乳がんと子宮頸がんから社員を守るために

まず、稲葉氏が「女性特有のがんと働く女性の健康」と題して講演した。生理に伴う症状、更年期症状など女性特有の健康課題は女性ホルモンによるものが多く、退職や昇進辞退などキャリアに影響している。経済損失は生理で5700億円、更年期症状で1兆8700億円、乳がんや子宮頸がんで6400億円に上る。適切な診療や予防によって女性も男性と同じように活躍できると、企業の働きかけを促した。

女性特有のがんについては、働き盛りであり育児世代の40代に多い乳がんと、20~40代の罹患が多い子宮頸がんを中心に解説し、がん検診による早期発見の重要性を強調した。乳がんはブレスト・アウェアネスで日ごろから乳房の状態を知っておくことが大切であり、気になることは乳腺外科への相談を勧めた。また、40歳からの乳がん検診(マンモグラフィ)は海外に比べて受診率が低いため、社員を守るためにも企業に周知を求めた。

一方で、子宮頸がんは防ぐことができるにもかかわらず国内で毎年1万人が罹患し約3千人が死亡している。予防には原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐワクチンを接種し、20歳から子宮頸がん検診を受けることが有効で、ワクチンは小学6年生~高校1年生相当の女性に定期接種が実施されている。国は25年度、積極的勧奨の中断などで接種機会を逸した1997~2008年度生まれの女性に、25年3月末までに1回目接種を済ませていることを条件に公費によるキャッチアップ接種を継続する。「2013年頃に接種後の身体症状や接種ストレス関連反応がワクチンの副反応ではないかと報道されたが、HPVワクチン接種群とプラセボ群で発生頻度に変化がなく有害事象とワクチンの因果関係は証明されなかった。安全性は他の予防接種と同等で、推奨年齢での接種で子宮頸がんリスクを9割減らすことができる。男子の接種は将来パートナーにうつさないことやHPVが原因の他のがんにも有効。一部の自治体で公費助成があるので検討して欲しい」と話し、女性社員に加え、男性社員の家族への周知を呼びかけた。

企業が実践するがん対策の具体例

トークセッション「企業が取り組めるがん対策事例」では、参加者から事前に寄せられた質問に対し具体的な事例を紹介しながら答えた。

受診率向上では、小巻氏は「いかに社員に伝え、行動に移してもらうかが課題」と述べた。社員面談で体調面にも気を配るが、40歳未満の社員の受診率は低く、「忙しい」「自分は大丈夫」などの理由で優先順位が上がらず、「健康が第一というメッセージを発信し続けたい」。がん予防では子宮頸がんを例に、母親に相談してHPVワクチンを接種した人が多いとの日本対がん協会が24年10月に実施した調査結果を踏まえ、小巻氏は「大切な人からのメッセージが人を動かす。最後の一押しの工夫も大切」。稲葉氏は「性交渉が絡んで話しづらいとの声もあるが、子宮頸がんを防ぐワクチンを無料で接種できるという話で十分」と助言した。

日頃のコミュニケーションから生まれる職場の心理的安全性が大切

治療と仕事の両立サポートとして、小巻氏は、休職制度や企業が加入する長期所得補償保険、職場の心理的安全性に言及。稲葉医師も心理的安全性を指摘し「相談してもマイナス評価にならないと明確に伝えることが大切。がん治療以外でも通院が必要な人はいる。仕事によっては待ち時間のリモートワークなどの融通がきけば患者も職場もwin-winになる」と話した。

がんリテラシー向上では、小巻氏が自社テーマパークで毎年行う活動「ハロースマイル」を例に、活動を続けることで担当する社員の啓発にもつながったとした。

職場の風土づくりの実践として、稲葉氏は「正確な医療情報も大切だが、同じ組織の当事者の話を聴くことで意識も高まる。組織ができることは、知る機会の提供、理解と想像、心理的安全性と受診しやすい環境の確保」と述べ、当事者への言葉のかけ方を例示。小巻氏は日頃からのコミュニケーションの重要性と自社の対話促進策を説明した。

最後に、稲葉氏は「女性社員の割合は増えており健康課題への対応が企業のプラスになる。女性が活躍しやすい組織は男性も活躍しやすい」。小巻氏は「社員の健康なくして企業の成長はない。健康で活躍できる社会を作っていきたい」と語った。

(左から)講師の稲葉可奈子氏と小巻亜矢氏、進行役の石田一郎常務理事