2024年09月05日(木) 開催

人はがんとどう向き合うか?医師・サバイバー・遺族の立場から

垣添 忠生

公益財団法人日本対がん協会 会長

垣添 忠生

1941 年大阪市生まれ。1967 年東京大学医学部卒業。東京都立豊島病院、東大医学部泌尿器科助手などを経て1975 年から国立がんセンター病院に勤務。同センター手術部長、病院長、中央病院長などを経て 2002 年に総長。2003 年には上皇さまの前立腺がん手術を担当した。2007 年に退職し、現在は公益財団法人日本対がん協会会長としてがん経験者(がんサバイバー)や家族の支援をはじめとする様々ながん対策を牽引。著書に「妻を看取る日 国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録 」など多数。

1941 年大阪市生まれ。1967 年東京大学医学部卒業。東京都立豊島病院、東大医学部泌尿器科助手などを経て1975 年から国立がんセンター病院に勤務。同センター手術部長、病院長、中央病院長などを経て 2002 年に総長。2003 年には上皇さまの前立腺がん手術を担当した。2007 年に退職し、現在は公益財団法人日本対がん協会会長としてがん経験者(がんサバイバー)や家族の支援をはじめとする様々ながん対策を牽引。著書に「妻を看取る日 国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録 」など多数。

セミナーレポート⑦「人はがんとどう向き合うか?医師・サバイバー・遺族の立場から」

企業のがん対策推進と、働く世代ががんに関する知識を高めて、健康意識の向上や行動の変化につながることをめざす「働く世代のがんリテラシー向上プロジェクト」の一環として、日本対がん協会は2024年9月5日、第7回「がんリテセミナー」をオンラインで開催した。

今回は同協会の垣添忠生会長が「人はがんとどう向き合うか?」と題し、がん専門医、サバイバー、患者遺族としての経験をもとに語り、企業の人事や健康施策の担当者ら約300人が参加した。

医師として、サバイバーとして、遺族として

垣添会長は1941年大阪市生まれ。1975年に国立がんセンター(当時)に入り、手術部長、中央病院長などを経て2002年に総長。2007年に退職し、日本対がん協会会長となった。国立がんセンター時代には、2003年に上皇さまの前立腺がん手術を担当したほか、自身も大腸がんと腎臓がんを経験した。その一方で2007年にはがん治療中の妻を自宅で看取った。甲状腺がんと肺腺がんの治療後、小細胞肺がんが見つかり約1年半の闘病の末だった。一時は深い悲しみに暮れたが、一念発起して心身を鍛え、がん専門医の経験、がん患者・遺族の経験、国のがん政策に積極的に関与してきた経験などを生かし、がん検診、がんサバイバー支援、在宅医療、グリーフケアに取り組んでいる。

がん対策は正しい情報に基づき、正しい判断と行動を

がんについては、「遺伝子異常で発生し、長い期間を要して進む細胞の病気であり、喫煙や食事、感染症など生活習慣や生活環境にも関連する」と説明し、世界的に4本柱の対策(①禁煙やワクチン接種などによる予防、②早期発見できるがん検診、③しっかりとしたがん治療、④疼痛対策などの緩和ケア)が行われていることに言及した。これまで診てきた患者の中には、「がん」と聞いただけで顔面真っ青になり椅子から崩れ落ちる人がいる一方、脳転移・肝転移・骨転移・腎転移と聞いても顔色を変えず淡々と抗がん剤による化学療法を受けた人もいる。「強い人もいれば弱い人もいる。人間の強さ、弱さをすべて包摂して医療はある」と信じて医療を行ってきたという。

また、自然界で最も広大な宇宙は1027 メートル、最小の素粒子は10-35メートルであり、ヒトは途方もないスケールの中に漂う儚い弱々しい存在だとする一方、ヒトのDNAをつなぐと太陽と地球を300往復する距離になることや、遺伝子の構成は一人一人違うことから、ヒトは個性を持った強靱な存在との見方も示した。そのうえで高山登頂や月面着陸、深海探査などヒトが挑戦し、成功した事例を挙げて「弱く見えるヒトも決意をすると大きな達成につながる」と指摘。そのためには正しい状況判断で正しい準備をし、正しい行動が必要であり、がん対策でも同じように正しい情報に基づき、正しい判断・行動へつなげることが大切だと語った。

講演後、質問に答える垣添会長
石田常務理事

がん治療と仕事の両立には、患者と医療者と企業が同じ認識を持つこと

質疑応答では、参加者から寄せられた「がん治療と仕事の両立は難しいと思うが、会社側、当事者双方にどのような姿勢や対策が必要か」との質問に、垣添会長は「医師は診断書を書くとき、患者さんはどの程度の仕事ができるかを書いて企業側へ伝えることで共通認識ができる。患者さんと医療者と企業が同じ認識を持って取り組むと働きながら治療はできる」と話した。

(日本対がん協会機関紙「対がん協会報」2024年10月1日号から)