シリーズがん教育③
島根県 県主導で様々なモデル授業を実施

 がん教育を学校現場でどのように取り入れるかはまだまだ手探りの段階にある。各自治体も、本格的な導入を前にそれぞれ試験的な取り組みを行っている。全国の都道府県で最初に「がん対策推進条例」を制定した島根県では、7月に日本対がん協会主催で実施した江津市立青陵中学校での出張授業以降、県が主導してがん教育を実施している。島根県健康福祉部がん対策推進室の藤井麻由美さんに、島根県の取り組みをお聞きした。


 島根県におけるがん教育は、保健所が学校などの依頼でがん患者さんの講演会を実施した例はありましたが、県が主体になって学校現場で本格的に実施したのは7月の青陵中学校が初めてです。
 元々は対がん協会に「ドクタービジット」を依頼できないか相談したのがきっかけで、今年になって出張授業を希望する学校を募ったところ10校から手が上がり、その中の1校が青陵中学校でした。
 青陵中学校では対がん協会の協力で東京から佐瀬一洋順天堂大学大学院教授に来ていただき、中学2年生全員を対象に多目的ホールで講演会方式で実施しました。その際の生徒の反応やアンケート結果、授業後に地域の学校や保健関係者の意見交換会で出た意見を参考に、この秋県独自に高等学校2校でがん教育を実施することになりました。
 実施する高校は、希望校の中から松江市の私立開星高等学校と浜田市の県立浜田高等学校定時制・通信制を選びました。色々バリエーションを持たせようと考えたからです。
 開星高校は2年生全員の3クラス116人を対象にして、まず全員が講堂で医師の講演を聞き、その後各教室に戻って、3名のがん体験者の方々からそれぞれ体験談を聞くという2部構成にしました。これは青陵中学での反省も踏まえ、大教室と少人数での授業の良い所どりをした形です。
 クラスでの授業の運営は担任に任せたので、多少ばらつきが出るという課題もありましたが、先生方からはいつもの授業にくらべて生徒の視線が違うという感想をもらいました。講師の医師は島根県環境保健公社(対がん協会島根県支部)の足立経一先生です。
 浜田高校の場合は定時制課程の昼間部の生徒たち1~3年生の24人が対象です。定時制課程は単位制の高校で、小中学校で不登校だった生徒たちが多く通っています。年齢も10代~40代と幅が広く、通常の中学高校とは異なるアプローチが必要です。
 今年度はこの3校でモデル授業を実施し、年度内に色々な事例をまとめて情報交換を行う場を設けて、来年度以降につなげたいと考えています。
 今後の大きな課題は、がん教育を行う人材(講師)の発掘、育成と、島根県オリジナルの教材の開発です。県内津々浦々の学校でがん教育を実施していくためには、地元の人材の育成が欠かせないのと、著作権などの関係もあり既存の教材を簡単に使えないという事情もあるからです。県独自のがん検診啓発サポーターの活用など、既存の事業も活用していく予定です。

先生劇団も登場。生活習慣切り口に定時制課程でがん教育島根県立浜田高等学校定時制課程・昼間部


 11月19日、浜田高等学校定時制・通信制でがん教育の授業が行われた。授業は総合的な学習の時間を利用して、キャリア教育の位置づけで実施した。
 対象となる定時制課程・昼間部は小中学校時代不登校だった生徒が多く、昼夜逆転、ゲームやネット漬け、孤食や偏食、コンビニ食ばかりと生活習慣の乱れが深刻だ。正しい生活習慣の大切さを学ぶという側面からがん教育にアプローチした。
 授業は2コマを使い、導入は先生劇団による寸劇。生活習慣が乱れた女子高生やドクターに扮した教諭たちの、「あるある会話」に生徒たちは大うけ、耳の痛い授業にすんなり導いた。
 続いて浜田保健所長で医師の中本稔氏が、がんの正しい知識を事前アンケートの結果を用いながら解説。将来はぜひ医療関係へ進んで欲しいと結んだ。次にがん体験者の竹田美代子さんが36歳で乳がんになって以来の経験と思いを語った。
 まとめとして、生徒たちには健康的な生活を送るためにできることを、用意した付箋に書いてもらい発表した。「運動する」「好き嫌いをしない」「少しでも変だと思ったら病院に行く」など、様々な意見が出た。
 授業を企画した石川恭子教諭と沖田美緒子養護教諭は「とにかく生徒たちの生活習慣の乱れは深刻です。それでも学校に通えるようになったというだけで、小中学校時代の先生には驚かれるぐらい。何とか少しでも考えてくれるようになれば」と話した。

対がん協会報2014年12月号より