2021年6月15日 つながろう!希少がん
患者に合った早期診療・治療に橋渡しをしたい~産官学・患者、国内外の連携強化がカギ~

休眠預金を活用した「がん患者支援事業」の一翼を担う一般社団法人日本希少がん患者会ネットワーク(以下、RCJ)は「産 官学・患者のネットワーク強化により、希少がん患者を適切な医療・治療に繋げ QOL 向上に貢献する」事業に取り組んでいる。今回、RCJ 副理事長の大西啓之さんと事務局長の馬上祐子さん、希少がんサバイバーで、仕事や趣味に全力投球して いる山田幸二さん(福島県会津市)にお集まりいただき、患者からみた課題や、第3期がん対策推進基本計画が掲げる治療 開発の視点も交え語っていただいた。聞き手は日本対がん協会「がんサバイバー・クラブ」横山光恒マネージャー、自身も希少がん経験者。(取材と構成・日本対がん協会 休眠預金活用事業担当)

種類が多く複雑、診断が遅れ予後に悪影響も

横山 まず、希少がんについて基本的なことをご説明頂けますか。私は肉腫の経験者で初期の診断時に腕の切断を告げられましたが、幸い他の治療法にたどり着いた経験があります。一般的に知られている「5大がん」(*1)と比べ、どのような課題 があるのでしょうか。

大西啓之さん

大西 希少がんは、約 190 種類と多い反面、個々のがん罹患者が非常に少ないという「希少性」から、そう呼ばれています。厚生労働省では、罹患率が人口 10 万人当たり6例未満で、患者数が少ないために診療・受療上の課題が他のがんに比べて大きく、政策的な対応を要するがんと定義しています。ただし、個々の患者さんの数を合計すると、毎年がんに罹患する人の 15~22%(15 万~22 万人)を占めます。

 患者さんの総数は多いのに、個々の症例数が少ないため、希少がんの専門医は少なく、専門情報の公開も遅れています。そのため、患者さんは「どこで受診したらよいか」といった診療、最適な薬や治療法の情報がタイムリーに提供されにくく、予後にも悪い影響が出ることもあります。さらに医療施設が遠隔地の場合、「受療上の困難」という課題もあります。このままでは希少がんで苦しむ人が忘れられてしまうのではないか、という危機意識がありました。

馬上 小児がんは依然、日本の子どもの病死原因の第1位です。しかも、小児がんは超希少がんの集まりです。例えば、 15 歳未満で毎年約 2,000 人が罹患しますが、がん種によって生存率が変わってきます。治療薬も 30 年ほど前のものが 多く、新薬の治験もほとんどありません。従来の強い抗がん剤や 放射線は子どもには効くため、生存率は上がってきましたが、一方で、強力な治療により、がん経験者の半分以上が晩 期合併症を発生すると指摘されています。適切な診断・治療に加え、長期の健康フォローも課題です。

数字でみる希少がん

「希少」は多い!バラバラの声を一本化して届けたい

横山 RCJを4年前の2017年に設立され、現在全国19の患者会と一緒に活動しています。どのような狙いがあったのでしょうか。

大西 第二期「がん対策推進基本計画」(2012年)で 希少がん医療への取り組みの大枠が示され、14年に国立がん研究センターに希少がんセンターが設立されました。翌15年に厚労省で「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」が立ち上げられ、当団体の西舘副 理事長、馬上理事が患者代表として参加。16年設置の国立がん研究センター希少がん対策WGには、第1弾として四肢軟部肉腫分科会に押田理事と私がメンバーとして参加しました。こうした一連の動きは、それまで情報が限られてきた希少がんの問題に対し、産官学と患者さんが一緒に協力しようという気運が生まれ、遺伝子異常を網羅的にチェックする診断方法、診療科の枠を超えた対応新しい治療開発推進に取り組んでいます。 その後、「バラバラの声を一本化して届けたい」との思いから、17年に眞島理事長中心に、11団体で「日本希少がん患者会ネットワーク」を作り、18年 に一般社団法人化しました。

RCJ事業コンセプト図

横山 本日Zoomでご参加頂きました山田さんは、福島県会津市在住の方です。サバイバーのお立場で希少がんの課題をどう感じていらっしゃいますか?

山田 私は8年前に「唾液腺導管がん」という希少がんに罹患しました。病歴をお話ししますと、ある時、喉にしこりを感じました。それがゴルフボールほどの大きさにまでになり、切除しましたが、組織検査やPET検査で転移が確認されました。主治医の先生からは「標準治療になるが、このがんに効く薬はなく、余命1年」と宣告されました。一方で、「こういう治療法がある」と東京の国際医療福祉大学病院での分子 標的薬の臨床試験について教えて頂きました。家族からも背中を押され、余命を伸ばすことに頑張ろうと決めました。それから3週間に1回と1カ月に1回、福島と東京を往復して治療が続きました。翌年、地元で喉に30 回の放射線治療を行い、CR判定となりました。幸い現在まで再発もありません。
福島の主治医の先生から東京での治療機会に繋げて頂いたことに感謝しています。いい先生に巡り会えました。その時、RCJ もご紹介頂きました。個人でも参加出来たので、さまざまな人や情報に出会い、福島で抱いていた孤独感が和らいだように思います。一方で、治療にかかる費用負担は本当に大変でした。

馬上 山田さんのように、地元の主治医から専門医に繋がったことが大きかったと思います。こうした“他の治 療法などの情報を提示して新しい治療の可能性へ橋渡しする、アンテナを張ってバトンタッチしていく、といったネットワークづくりに取り組みたいと考えています。

希少がん患者の声を聞き、ネットワーク構築を進める

横山 本事業では、産官学と患者・患者会のネットワーク強化や医療従事者同士の連携強化による課題解決を掲げています。どのように進めますか。

馬上祐子さん

馬上 まず、昨年12月に希少がん患者コミュニティ「raccoon」(ラクーン、
Rare Cancers Community On theNetの頭文字)を開設し、主に患者会のない、大変稀な希少がんの患者・家族の情報交流の場を作りました。親しみをもって参加してもらうために、アライグマのマスコットキャラクターも作りました。現在、掲示板には138名(2021年5月26日現在)が登録されています。話題カテゴリーとして、「心のこと、治療、遺伝子パネル検査、副作用、医師・病院、検査・診断、お金のこと」を設定していますが、参加者の言葉で多いのは、孤独感の訴え、治療法も確定しないことへの不安といったものです。同時にピア的なサポートもみられはじめています。私たちからは、遺伝子パネル検査や講演会のお知らせ、毎日のQOL(生活の質)、社会心理的支援などに関する情報提供を行っています。

raccoon

大西 産官学と患者の連携については、私たち RCJ と3大癌学会の合同でオンライン・シンポジウム(*2)を開催しました。これまで合同シンポは計4回開きましたが、特筆すべきは、国立がん研究センターに加え、大阪国際がんセンターにも希少がんセンターが設立され、国際的にも希少がんのネットワーク構築が進んでいるということです。今後、北海道や九州の大学病院にも広がる見込みで、産官学・患者アドボケートの発表・交流で効率的な課題解決を模索していきたいです。

「希少がん啓発月間」に集い、発信

横山 今年2月の1カ月間を「希少がん啓発月間」として、オンラインで講演や座談会、活動紹介の動画を配信しました。国内初の開催でしたが、反響や発見などお聞かせください。

馬上 期間中、いくつかのセッションを設けたのですが、医療関係者、患者さんやご家族、NPO、希少がん患者会 19 団体など、多くの関係者が集い、厚労省、国立がん研究センタ ー希少がんセンター、レアディジーズデー、休眠預金活用事業で小児がん経験者の長期健康づくりの啓発に取り組まれている「がんの子どもを守る会」に後援いただき、患者の声を聞き、学び、課題と解決について話し合った1カ月でし た。講演や座談会は現在も視聴でき、全セッションへのアクセス回数は3カ月累計で 4,800 を超えました(21 年5月 20 日現在)。まずは「つながろう!希少がん」の目指す大きなネットワークに向かって前進できたと思います。

「希少がん月間」最終日の座談会

大西 参加の医師から「一人ひとりの患者さんの生の声を聞く機会はとても貴重でした」「専門は肺がんだが共通点は多い。医者と患者のより良い関係づくりに努力したい」といったメッセージも頂きました。

新しい治療法開発の加速と費用負担の軽減を

横山 最終日のクロージングセッションで、医療者と患者さんの座談会「新しい治療法の開発について」に山田さんも参加されました。 何を伝えていきたいですか。

山田幸二さん

山田 希少がんと診断された時点で、(標準治療終了などさまざまな要件を待たずに) 患者の希望で遺伝子パネル検査(*3)を受けられるように出来ないかと思います。 合う薬があるかどうか、その人に合った治療法発見の可能性を早く知ることは患者にとって切実です。また、希少がん情報が不足しているのに日本は海外の治験の枠から外れているような印象を受けます。
二つ目は、経済的なことです。治療費の負担は大きい。例えば、3週毎に1回 25 万円の治療が2年間続く、と聞いて、治療を諦めた人を知っています。また、レセプト 審査(*4)で認められない、その理由を教えてくれない、といったケースもありました。なぜ希少がんの患者だけ?と思ってしまいます。いろいろながんに合う薬がもしも既存薬であったならば開発費用もかからないで済むわけですから、薬価も高額にならずに出来ると思いますので、適応外の治療も保険診療となればと思います。

馬上 いま、お話のあった治療や経済面での声・窮状を地域でのヒアリングやアンケート等でしっかり拾い、イン パクトのあるエビデンスとして定量化した上で、産官学・患者間での共有、行政への働きかけに繋げたいです。

大西 「ドラッグラグ」という言葉が無くなるように、研究開発の遅れを国際的な共同治験への参加や国内治験、 臨床試験の機会が増えることを見据えて連携を強めたい。その為にも患者さんの声は貴重です。今年は気軽に参加できるオンラインのおしゃべり場「ラクーンカフェ」を展開予定です。また、“カフェ“の運営を通じてスキルをもった人材の発掘も進め、事業の継続・広がりに備えたい。

山田 私は今、「がんピアネットふくしま」と会津若松市のピアサロンで、さまざまながん患者さんと交流しています。希少がんチームの一人として大きな動きに繋がる貢献ができればと思います。

横山光恒マネジャー

横山 日本対がん協会も産官学や患者会とのネットワークを活かし、声を集めること・伝えることや現場キャラバンへのサポートなど、できることは全力でお手伝いさせて頂きたいです。本日はありがとうございました。

*1: 胃、大腸、乳、肝、肺。がん罹患者全体の6割以上を占める。

*2: 2020 国際希少がん合同シンポジウムを日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会と開催。地域医療機能推 進機構、広島大学、Dept. Med., Ctr. Leon berardLyon France、医薬品医療機器総合機構、大阪国際がんセンター、北海道大学、第一三共が参画 URL( https://site2.convention.co.jp/jca2020/program )

*3: がん組織や血液から DNA を採取し、多数の遺伝子から遺伝子変異を調べること。

*4: 保険診療ルールに適合しているかどうかを確認すること。

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