2020年12月15日 がん治療と仕事の両立を応援「りぼら」がスタート

 
 休眠預金を活用してがん患者の就労支援事業を担う特定非営利活動法人「日本キャリア開発協会」(JCDA)は11月23日、資金分配団体である日本対がん協会のがんサバイバー・クラブと共催で、オンラインイベント「がんになった経験を社会に活かそう~自分のため・誰かのため~」を開き、全国から約100人が参加した。イベントでは、がん治療で休職中だったり、治療が一段落して就労を考え始めたりしている人たちに、企業で働く体験をしてもらうことで復職や就労移行を支援しようと始まった「りぼら」(リハビリ・ボランティア)事業が紹介された。「りぼら」が目指すものや、事業の担い手へのインタビューをお伝えする。(日本対がん協会 休眠預金活用事業担当)

「がんになっても自分らしく働く」が目標

佐々木好さん

「毎年約100万人のがん罹患者のうち、3分の1は働く世代。さらにその3分の1、約10万人は離職しています」と語るのは日本キャリア開発協会の佐々木好事務局長。国のがん対策推進基本計画を踏まえ、治療と仕事の両立支援や社会連携についてのガイドラインが示されるなど一定の進展がみられる半面、患者自身の葛藤・不安や職場での理解不足は依然としてある。
「『がんになっても自分らしく働く』は、これからが本番。ぜひ『りぼら』で新しい流れを作りたい」。

不安や葛藤に寄り添い「新たな一歩」を支援

 佐々木さんは「家族、友人、職場の仲間など身近でがんに罹患するケースが増え、いろいろな声を聴く中で、『キャリアカウンセラーとして何か役に立ちたい』という気持ちから『りぼら』の発想が生まれ、休眠預金活用事業に申請し、採択いただきました」と話す。
 参加者からの声でも多数寄せられたように、職場復帰を考えながらも多くの人は「この先どうなるのだろう」「周囲に言いづらい」「自分の居場所はあるの?」といった不安にさいなまれる。「それらに寄り添いつつ、その人本来のものが発揮できるよう『新たな一歩へ』をお手伝いしたい」と佐々木さんは力を込める。事業は①キャリアカウンセリング②仕事体験(ボランティア感覚で様々な仕事の可能性を一緒に探る、周囲も配慮・応援)③キャリアセミナー(仲間と共に分かち合い、輪を広げる)、の3つの柱で取り組むという。

“がんになった経験を社会に活かそう” に100人参加

カウンセリングを模擬体験

 2番目のプログラム「『自分らしく働く』って?」では、20分間のキャリアカウンセリングの動画を視聴し、不安・葛藤を整理するためのヒントを一緒に探った。参加者からは「自分にはない視点から整理でき、一歩を踏み出そうという気持ちになりました」「思い切って話してみたことで、漠然とした不安のため無意識のうちに自分に制限をかけていたことに気づきました」といった感想が寄せられた。

自分のがん体験がだれかの役に立った

 3番目のプログラム「ある、がんサバイバーの物語」では、大きな喪失感を乗り越え、新たな誕生日を祝えるようになった、あるがん患者が語った。
 「私は建設現場の仕事に長く携わっていたががんに罹患し、治療を経て復帰できたものの別の部署へ異動になった。大事なものを奪われた気持ちになった。ある日、職場の体育会系ばりの先輩が入院した。退院してきたが、やせて元気もない。周囲は気を遣っているのか何も聞かない。私は“がんになったの?仲間だね”と声を掛けるようになった。先輩から“いつもありがとう”と言われ、いつしか上司や仲間との自然な会話が戻った。自分のがん体験は全てがマイナスではなかった。だれかの役に立っていた……」(朗読の要旨)

オンラインで開催されたイベント
=東京都中央区の日本対がん協会

オンラインイベントの主な内容

1. 私もあったかも!こんな体験、あんな体験 がんサバイバーのあるあるばなし
2. 自分らしく生き、そして働く 山本さんのキャリアカウンセリング体験を観てみよう(気持ちの変化)
3. ある、がんサバイバーの物語「半径1メートルの社会貢献」 大きな喪失感に襲われながらもがいた経験が、今の私を創った!
4. 自分のため、誰かのため 参加者でわかちあい
5.「自分らしく働く」って? 体験キャリアカウンセリング(30分)
6. 新プロジェクト「りぼら」のロゴ紹介 ロゴ&キャラクターの発表、応募者の思い

ロゴ、キャラクター決定

 70点の応募から、いくつかのデザインコンセプトが選ばれ、自身もがんサバイバーであるデザイナー望月ミサさんによって完成した。キャラクター原案の作者からは「“涙あり笑顔あり、苦しい時も楽しい時も一緒に歩む”、という気持ちからウサギとカメをモチーフにしました」とのメッセージが寄せられた。がんとともに生きる全国の働く世代へ!

「りぼら」のキャラクター

なぜ「りぼら」なのか?プロジェクトリーダーの思い

キャリアカウンセラーの砂川未夏さんに聞く

 がん患者の就労支援には、本人や企業向けのガイド・マニュアル、医療機関の相談支援センター、企業向けセミナーや啓発活動など、さまざまな形がある。その中で、がん患者自身が企業の仕事をボランティアで体験して「働く」リハビリをしながら、働くイメージを作っていくのが、リハビリ・ボランティア、すなわち「りぼら」だ。事業の立案者で自身もがんサバイバーである日本キャリア開発協会のキャリアカウンセラー砂川未夏さんに、「りぼら」が生まれた背景や目指すものを語ってもらった。聞き手は、やはりがんサバイバーで、400を超えるがん患者会との協働を担っている横山光恒・日本対がん協会がんサバイバー・クラブ担当マネジャー。

 ―リハビリ・ボランティア、「りぼら」が生まれた背景は?”ボランティア“という言葉には「奉仕、短期的」というイメージもありますが。
 砂川 がん治療によって変化するのは身体や心の状態の変化だけではありません。家族や職場など周囲との関係も変化し、この先のキャリアへの大きな不安を抱えています。
 社会復帰の前後で大切になってくるのが、“準備と作戦”です。自分がどうしたいか、どうすれば働けそうかを考えたり、先輩がん患者や企業との交流やお仕事をボランティアで体験したりすることで「働く」リハビリをしながら、「働ける自信」「働く自分」を短期間で取り戻していきます。 これがリハビリボランティア「りぼら」です。一人ひとりの状況に応じてサービスを組み合わせ、一歩を踏み出すきっかけ・場を提供していきます。

自信回復~意思決定の期間に焦点

横山光恒マネジャー

 ―休眠預金を活用したこの「りぼら」の事業は2022年度までを一区切りとしていますが、何を目標にされますか。
 活動の効果、患者さん本人にとっての便益など、社会的インパクトをどのように評価していきますか。
 砂川 患者さんにとっては、がんの診断、治療、治療後というように、5年から10年という時間の中で様々な不安・葛藤と対峙します。この事業では特に、治療後の困難さとの共存から自信回復、そして自分らしさへの意思決定、という期間に焦点を当て、そこでの変化を事業が与える社会的インパクトの評価の対象とします。
 カウンセリングは一般的にはアンケートから始め、心理状態として10くらいの指標(評価シート)で行いますが、本人が復職に向けてどういう状態になりたいか、本人の満足度はどうだったか、というプロセスと結果をおさえていきます。
 
注視するのは、1カ月から3カ月くらいでの変化です。例えば、カウンセリング後に本人が使う言葉に未来形の動詞がより多く使われるようになることがあります。わらにもすがる状態だった相談者が、1年後にはがんの先輩として誰かの相談に乗る支援者になっているかもしれません。―キャリアカウンセラーは治療と仕事の両立を支援する専門人材です。どう育てていきますか。
 砂川 日本キャリア開発協会には現在、キャリアコンサルタントの国家資格を有する会員が2万人近くいます。仕事の経験分野など会員の層も実に幅広いです。がん治療と就労の両立を支援するプロの育成は、まず入門編としての両立支援スキル講習を基礎に、多職種との連携スキル、企業(職場)とつなぐスキル・感度を高めます。「りぼら」プログラムを通じて身に着けていくことにもなり、有用と考えています。育成計画の定量化も協会内で相談しています。

「りぼら」を職場の標準語にしたい

 ―東京都文京区で地元の中小企業や病院、行政などと協力パートナーとして連携を始めていますね。非常に印象的です。将来、この事業をどう発展させたいですか。
 砂川 コロナ禍でダイナミックに動きづらいこともあり、パソコンを使った「在宅りぼら」といったトライアルも行っていきます。オンラインであれば全国に広げやすいとも考えています。
 今後は日本対がん協会のがんサバイバー・クラブのネットワークも通じて、がん治療と就労の両立に悩む世代に少しでも多くキャリアカウンセリングのことを知ってもらいたいですね。「モヤモヤしたら『りぼら』だね」と思ってもらえれば。「りぼら」が職場の標準語として認知されるよう、がんばります。
 ―これからも是非一緒に連携したいです。日本対がん協会としても全力で応援します。ありがとうございました。

砂川未夏さん

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