職場で受けるがん検診、その状況は…
カギ握る企業の経営方針
企業が社員の健康管理を経営的な視点で考え支援する「健康経営」の取り組みを明らかにするため、公益財団法人日本対がん協会は、東証一部上場企業を対象にアンケートを実施しました。その結果、職域でのがん検診の状況や、コロナ禍の働き方への影響、企業の健康管理担当者の悩みが浮き彫りになりました。本ページはその概要をまとめたものです。
健康経営の浸透はまだ途上でもあります。実態を把握する機会が限られる職域のがん検診についても、今後の適正化を目指すうえで、今回の調査結果が役立てられることを期待しています。
経済産業省が制度設計した優良な健康経営を実践する法人を顕彰する「健康経営優良法人認定制度」について、回答企業121社のうち、46社(38.0%)が取得していました。取得年別の企業数を見ると、2015~2019年は一桁だったのが、2020年・2021年は11社・19社とコロナ禍の時期に特に増えていました。取得していない企業のうち、13社が2022年度の取得を目指していました。
健康経営優良法人の認定を取得していますか。 (n=121)
「健康経営優良法人の認定を取得している」とお答えの方へ。取得年をご記入ください。 (n=46)
「健康経営優良法人の認定を取得していない」とお答えの方へ。2022年度の取得をめざしますか。 (n=44)
コロナ禍での働き方の影響では、テレワークの導入が進んでいました。テレワークの導入が「0%」と回答した企業は2019年の43社から10社に大幅に減少しました。
2019年と2021年のテレワークの割合について(n=121)
2021年度の勤務制度のもとで、コロナ禍で業務への対応が十分できていると回答した企業が約4割の52社ありましたが、対応に支障が生じていると答えた企業も4割近くの46社ありました。
2021年の勤務制度の下、コロナ禍で業務に支障が生じていますか。 (n=121)
従業員間のコミュニケーションの問題では、半数以上の62社が障害を感じていました。コミュニケーションの手段としては、定期的なオンラインミーティングは2019年の25社から70社へと3倍近くになっていました。定期的なオンライン懇親会や、SNS、オンライン面談も増えていました。
社員間のコミュニケーションについてお尋ねします。
現状で社員間のコミュニケーションに障害を感じますか。 (n=121)
社員間のコミュニケーションを図る取り組みを整備されていましたか。
2019年と2021年、それぞれあてはまるものすべてお選びください。(n=121)
※左右にスクロールできます
オンラインが増える一方で、社員間のコミュニケーション障害の対応では、十分対応できていると答えた企業は34社で約3割にとどまりました。5割近い59社が一部に対応できていないことがあると答えました。
また、健康セミナー、健康相談、保健指導を実施した企業はそれぞれ増えていました。
コロナ禍でも現在の社員間のコミュニケーションを図る取り組みで対応できていますか。(n=121)
健康セミナーを実施しましたか。 (n=121)
労働安全衛生法に基づいて職域で実施されている「定期健康診断」はコロナ禍前の2019年も、コロナ禍の2021年でも、いずれも5割の企業が受診率は「100%」だったと回答し、コロナ禍前後で大きな変動は見られませんでした。
定期健診(労働安全衛生法に基づく)の受診率をお聞かせください。(n=121)
多くの企業が定期健診の未受診者になんらかの手段で受診を促す受診勧奨をしていましたが、6割の企業がメールを使っていました。約4割の企業が「所属長を通じて」と回答しました(複数回答)。
定期健診未受診者への受診勧奨方法であてはまるものすべてお選びください。 (n=121)
※左右にスクロールできます
医療保険者や事業者などが福利厚生や保健事業の一環として取り組んでいるがん検診については、実施する内容や項目は多様で、今回の調査では国が推奨するがん検診の内容と異なる実態も垣間見えました。
がん検診の種類 | 検査項目 | 対象者 | 受診間隔 |
---|---|---|---|
胃がん | 問診、胃部X線検査 または胃内視鏡検査 |
50歳以上だが、当分の間、 胃部x線検査は40歳以上も可 |
2年に 1回 |
肺がん | 質問、胸部X線検査、 (必要に応じて喀痰細胞診) |
40歳以上 | 年1回 |
大腸がん | 問診、便潜血検査 | 40歳以上 | 年1回 |
乳がん | 問診、マンモグラフィ (視診・触診は推奨せず) |
40歳以上 | 2年に 1回 |
子宮頸がん | 問診、視診、子宮頸部の 細胞診、内診 |
20歳以上 | 2年に 1回 |
※左右にスクロールできます
胃がん検診を実施する企業で、約6割がX線検査を採用し、約4割が胃内視鏡検査を採用していました(複数回答)。胃がんのリスクを血液検査で調べるABCリスク評価や、胃がんの原因リスクとなるピロリ菌の検査を取り入れている企業もありました。対象年齢は35歳以上と回答する企業が最も多く、2019年・21年ともに男女とも6割近くを占めました。
胃がん検診はどの方法で実施していましたか。あてはまるものすべてお選びください。 (n=121)
※左右にスクロールできます
胃がん検診を実施していた方にお伺いします。対象年齢は何才からですか。(2019年:n=84、2021年:n=82)
大腸がん検診・肺がん検診ともに、対象年齢は、胃がん検診同様に35歳以上が最多でした。肺がん検診では「20歳未満」と回答する企業も2割近くありました。
大腸がん検診を実施していた方にお伺いします。対象年齢は何才からですか。(2019年:n=82、2021年:n=79)
肺がん検診を実施していた方にお伺いします。対象年齢は何才からですか。(2019年:n=77、2021年:n=74)
乳がん検診の検査方法はマンモグラフィが最も多く、約5割で採用されていましたが、5割近くで超音波検査も採用していたほか、視触診も数社で見られました。対象年齢も40歳以上が最多でしたが、女性従業員全員、18歳以上、20歳以上、30歳以上、35歳以上と、さまざまでした。
乳がん検診はどの方法で実施していましたか。あてはまるものすべてお選びください。 (n=121)
※左右にスクロールできます
乳がん検診を実施していた方にお伺いします。対象年齢は何才からですか。(2019年・2021年ともに、n=72)
子宮頸がん検診では、医師による細胞診が最多でしたが、原因ウイルスの感染の有無を調べる(医師による)HPV検査も1割ほどありました。対象年齢は30歳以上が最も多く、20歳以上は2割台にとどまりました。
子宮頸がん検診はどの方法で実施していましたか。あてはまるものすべてお選びください。 (n=121)
※左右にスクロールできます
子宮頸がん検診を実施していた方にお伺いします。対象年齢は何才からですか。(2019年:n=63、2021年:n=61)
国が推奨する5大がん以外では、腹部の超音波検査や甲状腺がん、前立腺がんなどの検査例がありました。対象となるがん種は不明でしたが、血中のアミノ酸を調べる検査の実施例もあったほか、2022年以降でのがん検診の予定では、線虫検査キットの導入を検討する企業もありました。
治療と仕事との両立支援に関する社内制度を設けている企業は、2019年に67社だったのが2021年には73社に増えていました。介護と仕事との両立支援に関する社内制度を設けている企業は81社から85社に増えていました。育児と仕事との両立支援に関する社内制度を設けている企業は両年とも92社でした。
2019年と2021年それぞれに、治療との両立に関する社内制度を設けていましたか。 (n=121)
2019年と2021年それぞれに、介護との両立に関する社内制度を設けていましたか。 (n=121)
2019年と2021年それぞれに、育児との両立に関する社内制度を設けていましたか。 (n=121)
「健康に対する今後の会社の取り組みで悩んでいること」については、4割近くの企業が「各地の拠点へのヘルスリテラシーの公平な浸透」を挙げました。今後検討していることでは、半数近くの企業が「啓発セミナー(ウェブを含む)」を、外部機関に支援してほしいことでは、「ヘルスリテラシー向上対策」を挙げました。
健康に対する今後の会社の取り組みで悩んでいることはありませんか。あてはまるものすべてお選びください。 (n=121)
※左右にスクロールできます
健康に対する今後の会社の取り組みで検討していることはありませんか。あてはまるものすべてお選びください。 (n=121)
※左右にスクロールできます
健康に対する今後の会社の取り組みで外部機関に支援してほしいことはありませんか。あてはまるものすべてお選びください。 (n=121)
※左右にスクロールできます
7割近くが健康方針を表明
今回の調査では、会社(経営層)として社員の健康に関する方針を表明していた企業は全体の66%を占めました。多くが「健康経営優良法人」の認定を受けている企業や認定取得を目指している企業です。社員の健康に関する取り組みは、そのような方針を打ち出した企業ほど進んでいることが知られており、方針の表明を促すさらなる取り組みが求められています。
ICTと対面の使い分け
コロナ禍では、テレワークの導入が進み、社員間のコミュニケーションを図る取り組みについても、定期的なオンラインミーティングやオンライン懇親会(懇談会)など情報通信技術(ICT)の活用が目立ちました。健康相談や保健指導でもウェブによる面談が増えていましたが、一方で対面での面談が依然として最多でした。
コロナ禍によってICTの活用が進んだものの、何らかの要因で一定の限界もあったことがうかがえます。今後、ICTとリアルな対面での手法とどのように使い分けていくか、要因を分析しながら、それぞれの会社に合った最適解を検討していく必要があるでしょう。
マニュアルと異なるがん検診
定期健診の実施状況については、コロナ禍でも、それ以前でも大きな変動は見られませんでした。職場でのがん検診は福利厚生の一環で法定義務に基づいたものではなく、各社が独自に判断して実施されており、マニュアル通りではありません。厚労省の検討会が2018年に作成した「職域におけるがん検診マニュアル」で推奨されている検診手法や対象年齢、検診間隔と異なる取り組みが数多く見られました。
職域でのがん検診の実態を把握する機会は限られ、今後の適正化を目指すうえで貴重なデータになりました。
また、受診率について、不明と回答する企業が半数以上を占めました。理由についてはわかりませんが、企業側もまた実態を把握できていない可能性もあります。
両立支援に企業が努力
治療、介護、育児との両立支援については、6割以上で社内制度を設けていました。各企業の努力を感じさせましたが、さらに未整備の企業を減らしていく政策的な取り組みを検討すべきでしょう。
調査では企業の健康管理者の悩みも浮き彫りになりました。多くが企業内のヘルスリテラシーの公平な浸透や、啓発情報をどう発信するかに腐心し、さらに啓発セミナー(ウェブも含む)の拡充を模索しようとしていました。さらに、こうした取り組みを外部機関の支援に求める企業も多く、健康経営は企業だけで進めるのには限界があり、周囲が支える環境も併せて整えていく必要性を示しました。
アンケートに回答していただいた企業の業種は、サービス業が15社(12.4%)と最も多く、化学9社(7.4%)、小売業8社(6.6%)、建設業8社(6.6%)などと続きました。
東証一部上場企業を対象にした
健康経営に関する調査 調査報告書
以下より、目次単位でも
ダウンロードいただけます。