がん征圧運動(総論)

がん征圧運動(総論)

  日本対がん協会が創立された1958年(昭和33年)、日本のがんによる死亡者は87,895人だった。以来、がんによる死者は増え続け、1999年(平成11年)には290,000人を超えた(注1)。日本のがんによる年間の死者は、21世紀早々に300,000人を超えるだろう。

事故なども含めた年間の全死亡者の死因別では、1981年(昭和56年)にがんが166,399人で1位となり、以来19 年間、死因1位を続けている。20世紀末、わが国は「死者の3人に1人はがん死」の 時代を迎えた。

高齢化社会の進行などから、21世紀もがんの罹患者は増え、死亡者数も増加して行くだろう。2015年には罹患数890,000人、死者449,000人を記録する、との予測もある。

21世紀に入っても、人類はがんと闘わねばならない。

20世紀後半、がんの本体解明は進み、画像診断、内視鏡、医用工学などを活用した診断・治療法の開発は、治癒率の改善に成果をあげた。早期発見・早期治療を行なえば、もはや「死の病」ではない。21世紀は、これまでの成果をもとに、予測医学を駆使してのがん克服への一層の努力が必要であり、遺伝子研究などによる治療への期待も大きい。

国のがん政策は、1962年(昭和37年)に国立がんセンターを開設、1984 年(昭和59年)には「対がん10ヵ年総合戦略」を展開、1994年から「がん克服新10か年戦略」へと引き継がれた。がんが国民死亡順位1位になった翌年の1982 年(昭和57年)には老人保健法が施行され、胃がんなど5部位のがん検診が順次、国と自治体の負担制度のもとで受診できるようになった。

しかし、がん検診負担金(補助金)は1998年(平成10年)から地方交付税によって一般財源化され、2000年に発表された国の「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)では、がん検診の受診率の目標値が示された。新しいがん政策も検討されてはいるが、「自らの健康は自分で守る」ことを求められる時代が、到来しつつある。

国民のがんに対する意識も多様化している。インフォームドコンセントの普及などに伴い、「告知」への対応が変化した。生存率の向上が絶望感を和らげ、「癒し」や「共生」という概念でがんと向き合おうとする人が増えている。がんをめぐる環境は、激変している。

〈注1〉 厚生省の人口動態統計による1999年(平成11年)のがん死者は290,0556人。

このページのトップへ  日本対がん協会は、1958年(昭和33年)の創立以来、がん知識の普及とがん検診事業の推進を活動の2本柱として、20世紀後半の日本における民間のがん征圧運動をリードしてきた。組織全体で実施したがん検診の受診者は、累計1億8000万人を超える。この検診で、がんが発見された受診者は約18万人に達し、 国民の健康と福祉の向上に大きく貢献してきた。

21世紀のがん征圧の見通しを展望するとき、初頭の約10年間は依然として、生活習慣を改善する「一次予防」、検診による早期発見・早期治療を中心にした「二次予防」の果たす役割が大きい、と言わざるを得ない。がんに対する画期的な新薬の開発メドが立っていないこと、また治療法に日進月歩はあっても、これまでの状況を劇的に変化させる可能性は少ないからである。一方で、予防知識の普及や研究も深まってきた。がん征圧にとって「21世紀は予防の時代」と言われる所以である。

日本対がん協会は、がんの撲滅を期しながら、「啓発」と「検診」を通じてがんの予防活動を展開してきた。21世紀においても、寄付行為に定めた基本的使命を着実に果たして行きたい。

しかし、がんを取り巻く環境は激変している。その変化を敏感に感じ取り、柔軟に対応しなければ、時代の要請に応えることはできない。

21世紀を迎えるにあたって改めて確認したいのは、民間団体であり、公益法人である、との立場である。この立場は、今後も堅持すべきである。

日本対がん協会は、国のがん対策を民間の立場から補完することを大きな目的として創立された。高い公益性が求められるのは、そのためである。その役割は、基本的には今も変わらないが、具体的な対応については時代とともに変化が求められる。

国は21世紀初頭の健康づくり運動の指針として「健康日本21」を策定した。われわれは「健康日本21」を視野に入れつつ、がん征圧に関しては、必要な行政措置をとることを国や地方自治体に求め続けなければならない。

胃がんなど5部位のがん検診が、一時的にしろ老人保健法で対応されることになったのは、20世紀におけるがん征圧運動の大きな成果の一つだったが、検診一つとってもこれからは「お役所主導」型から「自らの健康は自ら守る」時代になるだろう。国への対応も新たな視点と感覚が求められている。

また、国立がんセンター、癌研究会付属病院などの医療機関、日本医師会、大学や各種研究機関など国内の関係組織との連携を保ちながら、がん征圧運動を推進していきたい。

がんに対する国民の意識が多様化し、早期発見・早期治療でがんを克服した人も増えてきた。こうした変化にも敏感でありたい。がん克服者と手を携えた運動も構築して行かねばならないだろう。

がんの征圧は、人類共通の願いである。だから、がんにかかわるすべての分野、すべての関係者が地球規模で連帯することが必要だろう。

21世紀、日本対がん協会も国際的ながん包囲網の一員として機能すべきである。

1961年、日本対がん協会はUICC(国際対癌連合)に加盟、日本の民間対がん組織として国際社会の仲間入りをした。以来、活動資金の拠出には貢献してきたが、実際の活動面での協力や情報交流は必ずしも十分ではなかった。

交通機関の発達、インターネットなど通信手段の飛躍的進展を踏まえ、21世紀には国際的連帯を一層活発に行うべきである。がん対策先進国の関係機関・組織との交流、発展途上国に対する検診設備の援助・支援、海外研修の実施、海外への広報などを展開するよう努めたい。

 日本対がん協会は、46道府県に支部を持つ全国組織である。啓発・広報活動だけの支部もあるが、ほとんどの支部が施設や検診車によるがん検診をおこなっている。それぞれ、地域の保健事業や啓発活動の中核的役割を担ってきた。

20世紀末、国のがん政策の変更により、がん検診事業に対する老健法の負担金制度が外されて一般財源化された。経済環境も厳しくなり、従来通りのやり方で検診事業を発展させて行くのは容易でなくなった。加えて「公益法人」としての責務と制約もある。その中で、がん検診の重要性を認識し、精度の高い検診によって地域住民の健康と福祉の向上に貢献することが求められている。

地方自治体へは新たな対応が必要になった。受診者のがんに対する考え方も、多様化している。検診も啓発も、新たな発想による挑戦が必要だろう。

 日本対がん協会は、民間によるがん征圧運動の推進団体として日本最大の組織である。その社会的信用と影響力は、本部と全国46道府県の支部が一体となった全国組織であることに負うところが大きい。この結束とそこから生じる力は、今後の活動にとっても極めて重要である。

本部と支部は、21世紀も連帯して「がん征圧」のための啓発、予防活動にあたりたい。そのため、募金活動、公益補助金の導入、がんの予防と検診事業の展開に必要な情報収集と交換などを、これまで以上に強化して行かねばならない。

本部は、組織を代表して対外組織と対応し、組織の結束と前進のため努力する。

支部は、多くが統合団体となっているが、「日本対がん協会支部」の立場と機能を堅持し、全国組織の一員として本部と連帯し、支部間の協調を図りたい。