坪野レポートから
「米国臨床予防サービス特別委員会」は、便潜血検査による大腸がん検診について、有効性を示す「相応の」科学的根拠があるとする1996年のB判定から、有効性を示す「適正な」根拠があるとするA判定へ引き上げることを中心に、見直しを行った。同委員会による改訂版の勧告は、「内科学アナルズ」2002年7月16日号に報告された。
「米国臨床予防サービス特別委員会」は、便潜血検査による大腸がん検診について、有効性を示す「相応の」科学的根拠があるとする1996年のB判定から、有効性を示す「適正な」根拠があるとするA判定へ引き上げることを中心に、見直しを行った。同委員会による改訂版の勧告は、「内科学アナルズ」2002年7月16日号に報告された。
1984年に米国保健福祉省により組織された「米国予防サービス委員会」(U.S.Preventive Services Task Force)は、各種の疾病予防施策(スクリーニング・カウンセリング・予防接種・予防的薬物投与)に関する研究論文を批判的に吟味しながら、体系的な方法論に基づいて有効性を評価している。同委員会の勧告は、米国保健福祉省の公式見解として位置づけられている。
1989年に、こうした作業をとりまとめた報告書「臨床予防サービスの手引き」(Guide to Clinical Preventive Services)の第一版が刊行された。 刊行当時、この報告書は、感染症の制圧に続いて慢性疾患の克服をめざす、「第二の公衆衛生革命」を推進する画期的な業績として高く評価された。
1996年に公表された報告書の第二版では、70以上の疾患に対する予防施策の有効性が、6000以上の研究論文の吟味を通して評価され、勧告が行われた。3回目の改訂については、一冊のまとまった報告書としてではなく、予防施策ごとの報告として、「内科学アナルズ」の論文などの形で、2001年より逐次公表されている。
1989年に、こうした作業をとりまとめた報告書「臨床予防サービスの手引き」(Guide to Clinical Preventive Services)の第一版が刊行された。 刊行当時、この報告書は、感染症の制圧に続いて慢性疾患の克服をめざす、「第二の公衆衛生革命」を推進する画期的な業績として高く評価された。
1996年に公表された報告書の第二版では、70以上の疾患に対する予防施策の有効性が、6000以上の研究論文の吟味を通して評価され、勧告が行われた。3回目の改訂については、一冊のまとまった報告書としてではなく、予防施策ごとの報告として、「内科学アナルズ」の論文などの形で、2001年より逐次公表されている。
1996年の第二版報告書では、大腸がんのスクリーニング検査のうち、「50歳以上に対する毎年の便潜血検査」については、有効性を示す「相応の」(fair)科学的根拠があるとする、B判定の勧告だった。
このほか、「50歳以上に対する定期的なS状結腸」もB判定とする一方、「全大腸内視鏡検査」「直腸指診」「バリウムX線検査」については、有効性に関する科学的根拠が「不十分」(insufficient)とする、C判定だった。
3回目の改訂にあたる今回の報告では、「50歳以上に対する大腸がん検診」について、個別の検査法を特定せずに、まずは全体として、有効性を示す「適正な」(good)科学的根拠があるとして、最高位のA判定の勧告を行っている。
その上で、個別の検査法によって科学的根拠の程度が異なるとして、検査法ごとの評価を示している。
「便潜血検査」については、有効性を示す「適正な」科学的根拠があると判断し、「S状結腸内視鏡」については、「相応の」根拠があるとしている。 「全大腸内視鏡検査」については、死亡率減少効果を示す直接的な証拠はないが、検査精度などの点で有効性が支持されると評価している。一方「バリウムX線検査」については、検査精度の点から有用性は限られていると留保している。
このほか、「50歳以上に対する定期的なS状結腸」もB判定とする一方、「全大腸内視鏡検査」「直腸指診」「バリウムX線検査」については、有効性に関する科学的根拠が「不十分」(insufficient)とする、C判定だった。
3回目の改訂にあたる今回の報告では、「50歳以上に対する大腸がん検診」について、個別の検査法を特定せずに、まずは全体として、有効性を示す「適正な」(good)科学的根拠があるとして、最高位のA判定の勧告を行っている。
その上で、個別の検査法によって科学的根拠の程度が異なるとして、検査法ごとの評価を示している。
「便潜血検査」については、有効性を示す「適正な」科学的根拠があると判断し、「S状結腸内視鏡」については、「相応の」根拠があるとしている。 「全大腸内視鏡検査」については、死亡率減少効果を示す直接的な証拠はないが、検査精度などの点で有効性が支持されると評価している。一方「バリウムX線検査」については、検査精度の点から有用性は限られていると留保している。
大腸がん検診の検査法としてもっともポピュラーな便潜血検査について、1996年の第二版報告書ではB判定に留まっていたが、今回はA判定相当に引き上げられた。
便潜血検査による検診で大腸がん死亡率が低下することを実証した無作為割付臨床試験の成績は、第二版の時点では、米国ミネソタ州の研究ひとつしかなかった。ところがその後、英国とデンマークの研究からも、同様の成績が報告された。こうした研究の進展が、今回の改定の背景にある。
全大腸内視鏡検査について、第二版報告書では、有効性に関する科学的根拠が「不十分」とする「C」判定だった。ところが今回の改定では、死亡率減少効果を示す直接的な証拠が依然としてないにもかかわらず、検査精度などの点で有効性が支持されるという評価に変わっている。
全大腸内視鏡検査は、便潜血検査などの「スクリーニング検査」で異常が認められた場合の「精密検査」として行われるのが普通で、手間や負担がかかる分だけ、がんの診断精度は高い。そのため、全大腸内視鏡検査を「精密検査」としてではなく最初から「スクリーニング検査」として使っても、有用性が期待できるという考えから、評価の変更が行われているようだ。
ただし同委員会では、便潜血検査などのより簡便な方法と比べた場合、全大腸内視鏡検査が(腸に穴をあけるような)合併症や費用などの点で見合うものかどうかは明らかでないとして、留保を加えている。
今回の改定の内容をまとめると、個別の検査方法の有効性については、科学的証拠の程度が異なるものの、大腸がん検診全体としての有効性は、十分に確立されているというスタンスを示していると言えそうだ。
便潜血検査による検診で大腸がん死亡率が低下することを実証した無作為割付臨床試験の成績は、第二版の時点では、米国ミネソタ州の研究ひとつしかなかった。ところがその後、英国とデンマークの研究からも、同様の成績が報告された。こうした研究の進展が、今回の改定の背景にある。
全大腸内視鏡検査について、第二版報告書では、有効性に関する科学的根拠が「不十分」とする「C」判定だった。ところが今回の改定では、死亡率減少効果を示す直接的な証拠が依然としてないにもかかわらず、検査精度などの点で有効性が支持されるという評価に変わっている。
全大腸内視鏡検査は、便潜血検査などの「スクリーニング検査」で異常が認められた場合の「精密検査」として行われるのが普通で、手間や負担がかかる分だけ、がんの診断精度は高い。そのため、全大腸内視鏡検査を「精密検査」としてではなく最初から「スクリーニング検査」として使っても、有用性が期待できるという考えから、評価の変更が行われているようだ。
ただし同委員会では、便潜血検査などのより簡便な方法と比べた場合、全大腸内視鏡検査が(腸に穴をあけるような)合併症や費用などの点で見合うものかどうかは明らかでないとして、留保を加えている。
今回の改定の内容をまとめると、個別の検査方法の有効性については、科学的証拠の程度が異なるものの、大腸がん検診全体としての有効性は、十分に確立されているというスタンスを示していると言えそうだ。
筆者(対がん協会注;坪野吉孝・東北大学助教授)は、6月28−30日にノルウェーのオスローで開催された、大腸がん検診の国際的な普及拡大に関するワークショップに参加してきた。
大腸がん検診の有効性を示す多くの研究が90年代に報告されたことを踏まえた上で、個別の検査法の優劣に関する議論をいつまでも続けるのではなく、大腸がん検診自体を国際的に普及拡大する方策を考えるべき時期に来ているというのが、会議の主調だった。筆者が参加した分科会の議長が、全体会での報告の最後に映し出した”Just Do It.”というスライドが、満場の拍手で迎えられたのが印象的だった。
大腸がん検診の有効性を示す多くの研究が90年代に報告されたことを踏まえた上で、個別の検査法の優劣に関する議論をいつまでも続けるのではなく、大腸がん検診自体を国際的に普及拡大する方策を考えるべき時期に来ているというのが、会議の主調だった。筆者が参加した分科会の議長が、全体会での報告の最後に映し出した”Just Do It.”というスライドが、満場の拍手で迎えられたのが印象的だった。
日本では、便潜血検査による大腸がん検診が、老人保健法に基づく保健事業として1992年に導入されたにも関わらず、1998年には国庫補助が打ち切られ(一般財源化=検診経費を自治体への地方交付税に含ませる方式に変更)、現在の受診率も対象年代の15%程度に低迷している。このことを紹介すると、「日本にはポリシー(制度)はあるが、プログラム(具体的な施策)はないということか」「それほど受診率が低い理由はなにか」などと他の参加者につっこまれ、非常に苦しい思いをした。
がん検診を公的施策として導入する以上、60-80%の高い受診率を実現するのが当然と考えている欧米の専門家に、日本の実情を理解してもらうのは容易ではなかった。
いつまでも「不思議の国・ニッポン」で済ましているわけにはいかない。そう痛感する経験だった。
出典 U.S. Preventive Services Task Force. Screening for colorectal cancer: recommendation and rationale. Annals of Internal Medicine 2002;137:129-131.
Pignore M, et al. Screening for colorectal cancer in adults at average risk: a summary of the evidence for the U.S. Preventive
がん検診を公的施策として導入する以上、60-80%の高い受診率を実現するのが当然と考えている欧米の専門家に、日本の実情を理解してもらうのは容易ではなかった。
いつまでも「不思議の国・ニッポン」で済ましているわけにはいかない。そう痛感する経験だった。
出典 U.S. Preventive Services Task Force. Screening for colorectal cancer: recommendation and rationale. Annals of Internal Medicine 2002;137:129-131.
Pignore M, et al. Screening for colorectal cancer in adults at average risk: a summary of the evidence for the U.S. Preventive
