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人はなぜがんになるのか、がんは治せるのか、日本のがん医療は……。日本対がん協会(垣添忠生会長)の「ほほえみ大使」、アグネス・チャンさんが、がん医療に携わる医師や研究者にインタビューして研究や治療の最前線を紹介する「アグネスが聞く」。1回目は中村祐輔・東京大学医科学研究所教授・ヒトゲノム解析センター長に答えてもらった。

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インタビュー第一回「がんワクチンに期待」 中村祐輔 東京大学医科学研究所教授 ヒトゲノム解析センター長 なぜ必要なのですか。細胞を作る仕組みでもあるのですか。

「私たちの体は常に新陳代謝しています。今ある細胞がずっと存在するのではなく、古い細胞は排除され、新しい細胞ができています。新しい細胞を作るのに必要なのが、がん遺伝子なのです。がん抑制遺伝子は、がん遺伝子が暴走し始めたら抑えるようになっています。車の運転と同じですね。アクセルとブレーキがバランスよく使われていると事故は起こさない。がん細胞はアクセルが暴走してブレーキが壊れたような状態です。修復遺伝子という修理工のような遺伝子もありますが、その監視からもはずれているのです」「異常の起こり方もいろいろあります。DNAの並びが置き換わったために、たんぱく質の性質が変わってしまう場合もあれば、白血病に多いのですが、染色体の一部がちぎれて別の部分にくっついてしまうこともある。遺伝子の異常が分かると、そこを特別にたたく薬も作れます。ハーセプチンもその一つです。乳がん細胞ではある遺伝子がたくさんできたためにがん化につながっている場合があり、その遺伝子を抑えるために作られた薬です」

細胞をとって調べましょうと言われますが、それは遺伝子を調べているのですか。

「その場合はふつう、はっきりと遺伝子を調べますと説明されます。細胞をみるというのは一つには形です。がん細胞では核が大きくなっていたり、浸潤と言いますが、ほかに広がっていたり。がん細胞に色をつけて顕微鏡でみるのです」

目で見て判断するのですか。

「そうです。ただ、がんは遺伝子の異常が積み重なってできていきます。正常細胞がある日突然、がん細胞になるのではありません。『中間』のような段階の判断は難しいですね」

違う診断になることもあるのでしょうか。

「本当に難しい場合もあるでしょう。誰がみても良性、誰がみても悪性だけならいいんですが、みる人によってがんだったり、がんでなかったりするケースはあると思います」

がん細胞が血液中に出す物質を見つける、血液検査でがんが分かるんじゃないか、という記事を読んだ記憶があるのですが。

「一部正しくて、一部正しくないでしょう。同じ大腸がんといっても、Aさん、Bさん、Cさん、みんな性質が違うからです」

どうしてがんができるかにかかわるのですね。

「いろいろな遺伝子異常の積み重ねでがんになるのですが、その組み合わせが人によって微妙に違う。同じ薬でも非常に効く人と効かない人がいる。Aさん、 Bさん、Cさんでがん細胞の性質が違うからです。我々が言うオーダーメード医療は、その違いを考えて治療法を選ぼうというのが基本です。副作用に関しても同様です。患者さんにとってメリットが大きい」

負担も少なく、無駄な時間も使わずにすむ?

「就任したオバマ米大統領が上院議員時代に『ゲノム・アンド・パーソナライズドメディスン』という法案を提出しているんです。遺伝子の情報を使って患者ごとにもっと適した治療をしましょうと。2年前に雑誌のインタビューに答えている。それを法律化しようとしているのは驚きです。アメリカは間違いなく、そういう方向に進むでしょう。FDA(米食品医薬品局)もそう考えています。私たちは10年ほど前から、そういう医療の実現を目指してチャレンジしてきました」

インタビュー第一回「がんワクチンに期待」 中村祐輔 東京大学医科学研究所教授 ヒトゲノム解析センター長
中村祐輔 東京大学医科学研究所教授 ヒトゲノム解析センター長

第一回 「がんワクチンに期待」

中村祐輔 東京大学医科学研究所教授
ヒトゲノム解析センター長
 

第三回

第四回 

第五回 

第六回 

 
同じ薬を飲んでも患者さんによって効き目や副作用が違ってくる。

「今はまだ、たいていは治療してみないと分からない。効いたら良かったですね、効かなかったら残念ですね。それが実情です」


「膀胱がんで、遺伝子の働きぶりと、抗がん剤の効果の関係を調べています。10人に1人くらいは膀胱を全部取らなくてすみます。4人はがんが少し小さくなる。5人は進行する。これだけしか説明を受けなかったら、患者さんはどう感じますか」

きっと自分はその1人になると信じますね。

「膀胱が残せるのと残せないのでは、生活が大きく違います。残せると信じて抗がん剤治療を受けたのに残せなかったとしたら、受けずに手術した方が薬の副作用がなかった分、よかったかも知れない」「乳がんでも、タモキシフェンという薬の効き目について米国のグループなどと共同研究中です。乳がんの悪化にかかわる女性ホルモンの働きを抑えて再発を防ぐこの薬は、体内に入ってから薬としての働きを持つように変化する。ところが日本人の20%では変化させる物質の働きが弱く、薬としての効き目が出にくい。こういう人は最初から別の薬を使った方がいい」

リレー・フォー・ライフの番組(NHK)に出た時のことです。ある女性が効くか分からない治療だけれども研究に参加すると言う。なぜか。データになりたい、次の人につながれば治療を試したい、と。とても強く心に響きました

「そういう方はたくさんいらっしゃる。でも、希望なく最後の瞬間を待つよりも、わずかな希望でも持ち続けることが大切だと思っています。治療法には科学的効果の実証が欠かせませんが、医療には『情』という部分も欠かせません」
「がんワクチン研究に参加して亡くなった女性のご主人が来られて深々と頭を下げられ、『家内は明るく死んでいきました』と言われたんです。『何もすることがないので緩和ケアにと言われたとたん何も食べなくなったけれど研究に参加して死の一週間前まで明るく過ごしていた』と。緩和ケアの充実と言われますが、体の痛みはとれても心の痛みはとれない。それが日本の医療の実情です。がんワクチン研究には、そんな心の受け皿の役割ももたせたいんです」

アグネス・チャン
香港生まれ。

72年、「ひなげしの花」で日本デビュー。
上智大を経てカナダ・トロント大卒。
89年、米スタンフォード大教育学部博士課程に留学。
教育学博士号(Ph.D.)取得。
日本ユニセフ協会大使としてのボランティア活動や
文化活動など幅広く活躍している
アグネスさんのインタビューに関するご質問・ご意見はこちらへお寄せ下さい

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